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解    説

■判  決: 京都地裁平成25年3月28日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 1241万5769円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト45・1頁
●審級関係: 控訴


 事案は、歯科医院を開業している歯科医が、勧誘を受けて平成16年から平成18年の間に購入した2つの外債と、外貨建てプロテクション付きノックインプット・エクイティリンク債と呼ばれる私募の株価連動型の米ドル建て仕組債(以下「本件仕組債」)を購入して損害を被ったというものであり、前2者については顧客の請求が棄却されたが、本件仕組債については説明義務違反が肯定された。なお、本件仕組債は、償還期限は3年で、金利は年19.65%で確定していたが、発行価額100万米ドル(本件の顧客はこのうち50万米ドルを購入)に対して想定元本は1000万米ドルであって、対象とする株式10銘柄のうち1銘柄でも株価が基礎価格の60%を下回るとノックインとなって損失の計算対象となり、3年後までに株価が基準価格に回復していなければ損失として確定するというものであった(但し損失は購入額元本に限定される)。
 判決は、適合性原則違反の有無に関しては、本件仕組債の仕組みは複雑で、そのリスクはそれなりに高いとしつつ、顧客は平成7年以降継続的に証券取引を行っており(他社での取引経験もあった)、外債や株式、外貨建EB債などを多数購入した経験のある投資経験が豊富な投資家であり、その投資意向は、収益性のみを追求するというものではないが安全性のみを求めるというものでもなく収益性をも志向していたとし、相当程度の資産を有し余裕資金で投資を行っていたとして、かような属性等から、本件仕組債の勧誘が適合性原則から著しく逸脱したものとは言えないとした。
 しかし、判決は、説明義務違反に関しては、「証券会社及びその従業員は、一般投資家に対し、同人が自主的な判断に基づいて当該取引を行うか否かを判断する前提として、その年齢、知識、投資経験、投資傾向及び理解力等その属性に応じて、当該金融商品取引の内容、仕組み及び取引に伴うリスクの内容とその仕組みについて説明すべき信義則上の義務を負っている」とした上で、説明内容に関する顧客の供述を否定して、担当社員がノックインという言葉の意味やどのような場合にノックインが起こるかについての説明をしたと推認されるとしつつも、以下のような判示によって説明義務違反を認めた。
 「ところで、NV8168(注・本件仕組債を指す)は、参照対象株式が10銘柄であることにより10の株式の株価の推移を同時に見極めなければならず、想定元本が発行価額の10倍であるために元本を毀損するリスクも10倍になることが、簡単には理解しがたく、リスクが個々の参照対象株式のボラティリティに大きく依存するといえる。この点に関して、○○(注・被告証券会社担当社員)は、原告に対し、NV8168を勧誘するに当たり、日経平均株価のヒストリカルボラティリティのチャート(乙16)を示した旨証言しているが、同チャートによれば、原告がNV8188を購入した平成18年2月の時点での日経平均株価のボラティリティは、約25%であったのに対し、NV8168の参照対象株式のそれぞれの株価のボラティリティは、必ずしもこれと一致するわけではなく(証人○○)、例えば、株式会社NTTデータの株式の株価のボラティリティは74%であった(甲21)。それにもかかわらず、○○は、表などを用いて、個々の株式銘柄の株価のボラティリティを原告に説明することはしていない(証人○○)。そうすると、○○の説明を聞いた原告が、NV8188の参照対象株式の株価がノックイン価格未満になり、元本が毀損される可能性が相当程度低いと信じたとしても無理からぬものといえる。したがって、被告は、NV8168の販売の過程で、原告に、元本が毀損するリスクの程度につき誤解を生じさせるような説明しかしていないということになり、こうした被告の説明は、説明義務違反となる。」
 そして判決は、本件仕組債購入による損害に関し、損害額から控除すべき利金は顧客が現実に受領した利金であるとして、源泉徴収税額を控除することを否定し、本件仕組債の売却代金は外貨のまま次の投資に充てられたことから口頭弁論終結時の為替レートをもって円に換算した損害額を認定した(過失相殺5割)。また、被告証券会社は、本件仕組債の売却は平成21年3月に行われたのに対し、既に平成19年に顧客が担当社員から元本がゼロになる見込みであると聞いていたことをなどを理由に、この段階で顧客は「損害及び加害者」を知っていたとして、不法行為による損害賠償請求権につき消滅時効の主張を行ったが、判決は、客観的な損害の発生時点(売却時を指している)から起算しても訴訟提起まで3年が経過していないとして、かかる主張を排斥した。
 他の外債についての請求の棄却や適合性原則違反の否定には疑問が残るが、仕組債における「元本が毀損するリスクの程度」の説明を正面から問題にして説明義務違反が肯定された点において、意義のある判決であると言える。