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解    説

■判  決: 大阪高裁平成25年2月22日判決

●商  品: 投資信託、株価連動債(EB)、外債
●業  者: 岡三証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反、無意味な反復売買
●認容金額: 660万6408円
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: 判時2197・29、金法2004・149、セレクト44・128頁
●審級関係: 顧客逆転勝訴・確定


 事案は、本件取引開始当時76歳の一人暮らしの女性顧客が、平成20年1月に、被告証券会社担当社員の勧めにより、相続で取得していた多数の株式を成行注文で売却し、これによる売却代金を主たる原資として、勧誘による投資信託の取引(15回購入・10回売却)と各1回のEB及び外債の取引を行い、損失を被ったというものであったが、一審では、顧客全面敗訴の判決が言い渡されていた。なお、顧客は、本件取引開始前に暫く入院し、その間に成年後見開始の審判を受けており、その後退院して、平成19年11月に成年後見開始取消の審判を受けていた。
 判決は、まず、個々の取引の経緯や内容を実に詳細に認定し、診断書や調査官報告書、介護審査記録等に基づいて顧客の生活状況や判断能力の実情についてもきめ細やかな認定を行った。そして判決は、最高裁平成17年7月14日判決の判示内容に沿って適合性原則違反の要件を論じた上で、@本件各商品の商品特性につき、投資信託については、いずれもR&Iのリスク分類上RC3以上の基準価額の変動が大きいものとなっており、RC5の投資信託も含まれ、為替リスクを背負う商品、カントリーリスクを背負う商品、株価変動リスクを背負う商品など様々なリスクを負っていたことを指摘し、外債については、日本では一般に知られていない南アフリカの社会情勢によって評価額が変わるため円とランドの為替相場を予測して投資するかどうかを決めることが求められる旨を指摘し、EBについては、対象株式の最終評価日の株価で株式償還か現金償還かが決まる極めて高度な投資判断が求められる商品である旨を指摘し、A顧客の取引経験については、成年後見開始以前に取引経験があったものの、それらは比較的安全な取引であったことや、それらの取引時点では顧客は本件取引時よりかなり若かったこと、取引規模も1回あたり数十万円〜200数十万円と小さく、1回の取引に1000万円以上集中投資することはなかったこと、平成13年5月以降は新規の取引をほとんど行っていなかったことを指摘して、かような従前の取引は本件取引と質的、量的に大きく異なるとし、B本件取引当時の顧客の判断能力については、後見開始取消の審判がなされていたとはいえ、未だ回復途上であり、日常生活を自力あるいは介助を受けて何とかこなすことで精一杯の状況であり、主体的な判断で証券取引等を行うことが不可能な状態であったとし、C顧客の投資意向については、預貯金の金利よりは利率の良い分配金の得られる安全な商品の取引を希望する程度の、慎重な投資意向であったして、「以上によれば、○○(注・担当社員)は、かつて株式の現物取引などの経験はあったものの、その後△△△△△症(注・病名は省略)などに罹患して一旦は後見が開始され、後見開始が取り消されてからも主体的な判断で証券取引等を行うことが不可能な状態であった、満76歳という高齢で一人暮らしの控訴人に対し、相当のリスクがあり、理解が困難な投資信託やEB債の購入を勧誘し、投資させたものであり、控訴人の意向と実情に反し、過大な危険を伴う本件取引を勧誘したものであるといえるから、○○の勧誘は、適合性の原則から著しく逸脱した投資信託等の勧誘であるというべきである」として、適合性原則違反による不法行為を認めた。
 次に、判決は、説明義務につき「金融商品取引業者は、信義則上、一般投資家である顧客を証券取引に関するに当たり、自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務を有すると理解するのが相当であり、この義務の違反は、顧客に対する不法行為を構成する」とした上で、担当社員が取引の仕組みの概要やリスク、コスト等の基本的な情報について一応の説明はしたものと認められると判示しつつ、相当なリスクを有する投資信託やEB等が買い付けられ、比較的短期間の保有日数で投資信託の乗換売買が繰り返されるなど、相当に積極的な投資判断に基づく取引が行われていることから、担当社員としては「勧誘する取引について自らの証券取引の知識、経験、財産状態、投資意向等に適しているか否かを自ら判断できる機会を与えるべく、控訴人に対し、新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針、リスクの質と程度はもちろんのこと、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、控訴人の属性等を踏まえ、控訴人の取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務があった」とし、担当社員が行った説明では、顧客の属性等に照らすと、本件商品の内容、仕組み、リスクの質と程度、乗換売買を行う理由、メリット・デメリット等につき十分説明したものとは到底いえないとして、説明義務違反による不法行為を認めた。
 さらに判決は、「証券会社が、顧客の利益よりも自らの手数料収入の獲得等という利益を優先させ、顧客を不適切に多量・頻繁な取引を勧誘することは、金融商品取引法36条の規定する誠実・公正義務にも違反し、許されない」とした上で、本件取引における投資信託の乗換売買を1つ1つ具体的に検討してその合理性の欠如を指摘し、約1年3ヶ月のうちに取引回数が29回、総買付代金額は4000万円を超え、回転率(いわゆる年次資金回転率)は2.16回、手数料率(全損失に占める手数量の割合)は13.2%、保有日数は最も長いもので365日、最も短いものが68日で6、7ヶ月しか保有されていないものが多いことを指摘し、さらに、投資信託は株式の取引に比して手数料が高率であり、クローズ型のみならずオープン型であっても基本的には長期保有が前提とされており、この点は被告証券会社内部でも乗換えの際には確認書の作成が義務付けれられていることからも明らかであるとして、「ところが、○○は、前記のとおり、比較的短期間の保有日数で、控訴人の知識・経験、投資目的、資金の量に照らして適合的といえず、また合理性のない、投資信託等の反復売買、乗換売買を繰り返し、その結果、別紙取引一覧表記載のとおり、1度を除き、全て控訴人が損失を被っている上、手数料が比較的高率であることを考え併せると、○○は、控訴人の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは被控訴人の利益を図ったものと推認するのが相当である」との判示を行い、かかる行為は「無意味な反復売買、乗換売買」として不法行為を構成するとした。(過失相殺2割)
 顧客の属性等や個別の取引内容の深い検討をはじめ、適合性原則、説明義務、乗換売買に関する判断のいずれをとっても、実に的確で正当な判断がなされており、顧客逆転勝訴判決である点と併せ、今後の同種事案の被害救済に関して先例的意義を有する判決であると言える。