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解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年2月20日判決

●商  品: 投資信託(仕組投資信託/ノックイン型投資信託)
●業  者: その他・・・中央三井信託銀行
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 894万4417円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: 判時2195・78頁、金商1415・40頁、セレクト44・87頁
●審級関係: 確定


 事案は、本件取引の当時77歳で、聴力に支障がある一人暮らしの女性顧客が、預金先であった被告銀行からの勧誘により、定期預金を満期前に解約してノックイン型投資信託(中央三井償還条件付株価参照型ファンド07−07・愛称「プレミアム・ステージ07−07」)を2100万円で購入し、損失を被ったというものであった。判決の認定によれば、本件商品は、期間は3年で、日経平均株価の推移によっては早期償還され、早期償還されない場合には、日経平均株価が一度も購入時のスタート価格に比して30%以上下落しなければ償還日に元本全額が償還されるが、一度でも30%以上下落すれば償還時の下落割合に応じた元本割れの損失が生じるというものであった。また、顧客には投資経験はなく、収入は年金のみで、保有する金融資産は、購入原資となった定期預金を合わせて2850万円程度の預金であった。
 判決は、まず、本件商品の商品特性につき、その基準価額は運用対象たる債券の価格変動を反映し、当該債券の価格は主に日経平均株価の変動、金利の変動及び発行体の信用状況の変化の影響を受けるため、元本は保証されていないこと、上記のように株価が一度も30%以上下落しなければ元本が確保されるが、株価が上昇しても目標分配額が購入者が得られる利益の上限となること、解約を申し込むことができるのは解約可能期間の銀行営業日の約15%の日数であるため、適時にリスクを回避する方途は大きく制限されていること、早期償還とならないまま株価が一度でも30%以上下落すれば元本が保証されないことなどを指摘して、「購入者が適切な投資判断を行うためには、購入者が、少なくとも上記のような本件商品の仕組み及び価格変動リスクを理解している必要がある」とした。
 他方で、本判決は、顧客に交付されたパンフレットの記載内容につき、「太字及び大きな活字で特に強調して記載されている部分のみを読んだだけでは、本件商品が、償還価額が投資元本額を大きく下回る可能性のある金融商品であることを認識することは困難であり、少なくともこの種の商品に初めて接する者にとっては、小さな活字で記載された部分も合わせて読んではじめて、本件商品が、投資元本が保証されていない金融商品であること及び同パンフレットに記載された目標分配額の支払や実質的な投資収益率が保証されているものではないこと(同パンフレットに記載された目標分配額の金額や実質的な投資収益率の数字は、現時点において目標としている運用成果に過ぎないこと)が認識できるような体裁がとられている」と判示した。次いで本判決は、詳細な証拠評価によって、勧誘の経緯や、顧客の積極性、金融資産及び投資意向の申告内容等についての被告銀行担当社員の証言の信用性を否定しており、たとえば口座設定申込書の金融資産額や投資目的の記載については、顧客ではなく担当社員が記入したものであることから慎重な吟味が必要であるとした上で、担当社員の証言内容を検討してその信用性を否定し、担当社員が顧客の実情を正確に聞き取って上記申込書に記入したとは認め難く、顧客が当該申込書に記入された金融資産額や投資意向を述べたと認めることもできないと判示した。また、取引後のやりとりについても、判決は、担当社員らが作成していた「交渉履歴」について、「上記の交渉履歴は、あくまで被告従業員の認識を示すものにすぎず(原告が内容を確認した上で署名押印したような書面ではなく、原告の認識が正確に反映されていることの担保はない。)、被告従業員の報告内容やそれに対する原告の態度を含め、その記載内容の信用性については慎重に吟味する必要がある」とした上で、その記載内容の整合性の欠如や不自然さを指摘し、これらはたやすく信用できず、本件取引後も顧客に運用状況を報告して顧客もこれに理解を示していたとの被告銀行の主張は採用できないと判示した。
 そして判決は、前記の商品特性に照らし、「購入者が、本件商品を購入するか否か、購入額をいくらにするか、途中解約をするか否か等の本件商品に関する投資判断を的確に行うためには、購入者には、少なくとも、被告従業員の説明を聞き又はパンフレット等の交付された資料を読むことで本件商品の上記特性を認識及び理解できるだけの能力、及び、日経平均株価の推移や動向をある程度は把握及び理解できる能力が必要といえる」とした上で、顧客の前記属性や学歴、職歴、経歴からして、このような能力を備えていなかったとし、前記のパンフレットの太字及び大きな活字で強調して記載された部分の内容や被告銀行が顧客の亡夫の長年の預金の預入先であった銀行であることも合わせ鑑みれば、パンフレットを見せられた上で定期預金を解約してその解約金で本件商品を購入するよう勧められた場合には、投資経験のない高齢者である顧客においては、本件商品が元本が確保された高利回りの預金あるいは預金類似の金融商品であると誤解する危険性が高いと考えられること、顧客の投資意向は元本の安定性を重視するものであったこと、本件の投資額2100万円は顧客が保有する金融資産の7割以上にも当たること、顧客は高齢であるから医療費や介護費等の資金需要が生じる可能性は否定できず、投資による損失を将来の資産運用又は投資によって取り返せる時間的余裕があるかどうかにも疑問が残ること、などを指摘して、「安定した資産であり原告が保有する金融資産の7割以上を占めていた本件定期預金を解約して、その解約金を原資として本件商品を購入するよう勧めた一連の勧誘行為は、原告の実情と意向に反する明らかに過大な危険を伴う取引を勧誘したものといえる」として適合性原則違反による不法行為の成立を認めた。
 さらに判決は、上記のような属性等を有する顧客に上記のような勧誘を行うにあたっては、「本件商品の内容やその内包するリスクを原告が具体的に理解し得るように、少なくとも、本件商品は、日経平均株価が大きく下落した場合には投資元本額を大きく下回る金額しか償還されない可能性のある金融商品であること、本件パンフレットに記載された目標分配額の支払や実質的な投資収益率の利率は保証されたものではないこと、本件商品は、解約できる期間が制限されているものであること等を、原告が理解できる平易な言葉を用いて原告が理解できるまで十分に説明すべき必要があった」とし、パンフレットの記載内容に沿った一応の説明があったことは認定しつつ、説明の態様や問題点、担当社員の証言の不自然さを具体的に指摘して、「本件パンフレットの記載内容及び原告の年齢、経歴、難聴であったこと並びに被告従業員らの説明に対する原告の対応等に照らせば、○○及び△△(注・いずれも担当社員)は、原告において本件商品の内容及びリスクを理解するのに十分な説明を原告に対して行わなかったと推認できる」と判示して、説明義務違反を認めた。
 加えて、判決は、被告銀行が過失相殺の理由として主張した事実をすべて否定した上で、「(担当社員らは)適合性に欠ける原告に十分な説明をせず本件商品を勧め購入に至らせたのであるから、原告の行為に重要な財産の処分を安易に一任した過失があると評価することはできない」と判示し、「適合性原則違反及び説明義務違反のどちらとの関係でも、過失相殺を行うことが相当であることは認められない」として、過失相殺を否定した(なお、顧客は、満期前に解約させられた定期預金についての満期までの利息と中途解約利息との差額をも損害賠償の対象として請求していたが、これも全額認められている)。
 信託銀行によるノックイン型投資信託の勧誘、販売の実情が詳細な証拠評価によって的確に指摘された上で、適合性原則違反等を肯定しただけでなく、明示的に過失相殺が否定されて顧客全面勝訴の結論が下された点において、数多くの高齢者の被害事案の救済の手本となるべき画期的な判決である。