[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年2月15日判決

●商  品: 仕組債(為替連動債、株価連動債)
●業  者: 三菱UFJ証券(判決時の商号・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 6188万0724円
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト44・244頁
●審級関係: 控訴審で和解

 事案は、かねてから精神疾患に罹患していた無職の独身女性たる顧客に対し、実兄が顧客の資産運用につき三菱東京UFJ銀行に相談したことを契機に、被告証券会社からの勧誘が行われ、顧客の入院中に為替連動型の仕組債が、退院後通院を継続していた時期に3つの株価連動型の仕組債(EB)が、それぞれ勧誘により購入されるに至り、損失が生じたというものであった。
 判決は、まず、為替連動型の仕組債について、「本件為替リンク債は、最初の半年は年利8%の利息を受け取ることができるが、その後、最長30年間償還されず、為替レートに応じて年利0.01%から8%、累計合計で最大16%の利息を受け取ることができる一方、長期間資金を拘束され、しかも、30年後の償還額は、為替相揚によって大幅な元本毀損のリスクが生じる。さらに、本件為替リンク債について、市場取引は想定されないため、本件為替リンク債を途中売却する場合には、期待収益によって算出される理論値より更に売却価格が下回るリスクが存するものということができる。そのため、購入者は、償還期限までの為替相場の変動状況や発行体の存続可能性を見越して、本件為替リンク債に組み込まれた償還条件や利子の条件が有利であるか否かの判断を要することになるが、本件為替リンク債は、償還期限が30年後と極めて長く、しかも、その購入代金が1億円と高額であるため、上記判断を相応にすることは、個人の一般投資家にとって、著しく困難であるというほかない。」と判示し、次に株価連動型の仕組債につき、「本件各EB債については、満期時までに対象株式がトリガー価格を超えて上がると早期償還されてその後は金利がつかずに元本が償還され、基準価格を下回らない限り一定の高い金利(本件トヨタEB債につき5.5%、本件石川島EB債につき11%、本件三井金属EB債につき11.6%)が払われるが、それ未満になると0.1%の金利で拘束される上、株価が下落し転換対象株式で償還された場合に下落分の評価損を負担することとなるが、途中売却が困難であるためにそのような評価損を軽減又は回避することができないなどのリスクが存するものということができる。そのため、購入者は、経済状況、株式市況の動向に関心を払い、3年後の株式市況の動向を予測した上で、途中売却が困難であるというリスクを取りつつなお購入すべきか否かの判断をしなければならず、主体的積極的な投資判断を要する投資商品であり、リスク性の高い投資商品である。」と判示し、「以上によれば、本件各債券は、各種証券取引の中でも極めてリスクの高い取引類型であり、その仕組みも複雑であることは否定できず、その取引適合他の程度も相当に高度なものが要求される。したがって、本件各債券の取引に適合するのは、少なくとも、上記のリスクを理解するに足りる知職・能力と、その危険を引き受けるに足りる余裕資金を有する者に限られるというべきである。」と結論付けた。
 そして判決は、上記の顧客の属性や入通院時の取引であったことに加え、顧客と被告証券会社担当社員とのやりとりの内容を子細に認定して、顧客は複雑な仕組みの金融商品の内容等を理解し、自らの証券知識、経験、財産状態、投資意向等に即した投資判断をするだけの能力に乏しかったとし、担当社員らが顧客と何度も接触する中で誰も精神疾患に気付かなかったことは信用できず、担当社員らは顧客の理解力や投資判断能力に問題があることを認識していたか、あるいは十分に認識し得たと判示した上で、顧客に積極的な投資経験がなかったこと(過去の運用は顧客の父が行っていたとされている)、安定志向の投資意向を有していたことを指摘し、争いがあった財産状態については、顧客が金融資産5億円以上、年収1000万円以上3000万円未満と申告していたことを認定した。その上で判決は、本件各仕組債は上記のような特性を有する商品であったのに、上記のような属性等を有する顧客に対し、取引開始後間もなくして1億円が30年間固定される為替連動型の仕組債の勧誘が行われ、その後続けて合計約9000万円の各EBの勧誘が行われたことは、適合性原則から著しく逸脱するものとして不法行為となるとした(なお、判決は、顧客が多額の資産を有する旨を申告していたことについては、顧客の知識や理解力に注意を払わず、顧客の投資意向と実情に反して各仕組債を勧誘することを正当化するものではないと判示している)。
 また、判決は、説明義務につき、「本件各債券は、その仕組みが複雑であり、組み込まれたクーポンの利率、早期償還及び満期償還価格に係る条件がそれぞれ基本となる金融指標の水準に応じて異なった結果をもたらし、専門的に分析すると、場合によっては、株式よりも不利な面や、リターンよりリスクが大きい面があるのに、その点が見えにくいといった難解な商品である上に、市場性、流通性に欠け、途中売却の可否や価格あるいは方法も明示されておらず、不透明であるほか、前記3のとおり、原告は、投資に関する知識や十分な理解力を有しておらず、被告との取引について積極的な投資意向も有していなかったのであるから、被告担当者は、これを勧誘する以上、顧客である原告に対し、原告の自己責任において自らの投資意向に沿うかどうかを見極めて適切な投資判断をすることができるよう、本件各債券の特徴やリスク等を十分に説明して、その理解を得させるべき義務を負っていたものというべきである。」と判示し、説明資料を用いた一応の説明は行われたものの、顧客が勧誘直後にほぼ即決に近い形で購入を承諾して合計約1億9000万円を各仕組債に投じていることや、担当社員とのやりとりの内容などから、仕組みや危険性等について顧客が具体的に理解できる程度の説明をしたとは認められないとして、説明義務違反を肯定した。
 なお、本件においては、顧客の実兄が一定の関与をしていた(実兄は自らが経営する法人で為替連動型の仕組債の複数回にわたる取引経験を有していた)ため、その位置付けが問題とされたが、判決は、適合性原則違反の有無の判断は、投資判断主体であり効果帰属主体である取引主体の意向や実情等を基準とすべきであるとし、説明義務についても、代理人による取引等の場合を除き、原則として、本来の投資判断主体である取引主体が商品の説明等について単独で理解できる程度の説明を行う義務を有しているとし、本件では被告証券会社においてはそもそも代理人による取引が許容されていなかったことも指摘して、適合性原則違反や説明義務違反の有無の判断については顧客の意向や実情、投資判断能力等を基準とすべきであるとした。そして判決は、実兄が面談に同席したり説明を受けて協議するなどしていた点については、かような実兄の関与により顧客自身の理解力や投資判断能力が補完されたといった事情があれば、その限りにおいて考慮されるに過ぎず、実兄に理解力や投資判断能力があり実兄に説明が行われたからといって、そのこと自体で顧客に対する適合性原則違反が否定され、あるいは説明義務が尽くされたと判断されるものではないとしている。(但し、かような実兄の関与は、過失相殺に関して考慮されている。)
 EBのみならず為替連動型の仕組債についても、その商品特性上の問題が的確に把握され、実兄の関与についても適切な判断が行われて、仕組債取引全体について適合性原則違反及び説明義務違反が認められている点において、重大な意義を有する判決であると言える。