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解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年1月15日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: 日興コーディアル証券(判決時の商号・SMBC日興証券)
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 1100万円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト44・197頁
●審級関係: 控訴


  事案は、会社代表者である顧客が、リーマン・ブラザーズ・トレジャリー発行(リーマン・ブラザーズ・ホールディングス・インクが保証)の私募の仕組債(3銘柄を対象とするEB)を平成20年7月8日に代金5000万円で購入したところ、同年9月にリーマングループが破たんしたため、償還を受けられない状態となり、訴訟提起に至ったというものである。
 なお、判決の認定によれば、顧客には相続等により1億円程度の金融資産があり、株式取引経験の他、代表者を務めている会社での社債発行の経験もあったとされている。また、リーマンの破たんに至る経緯については、判決は、平成20年3月頃の株価下落や、第1四半期決算で純利益が57%減となりリーマンが第2のベアー・スターンズになるとの憶測が広がっていることなどが報道されたこと、6月9日には第2四半期決算で約28億ドルの赤字になることや60億ドルの増資を実施する方針であることが明らかになっており、同日、ムーディーズは格付けのアウトルックをステイブルからネガティブに引き下げ、S&Pは格付けをA+からAに引き下げたことなどを認定している。
 判決は、上記のような顧客の属性等から適合性原則違反は否定したが、本件仕組債は「株式のプットオプションの売りが組み込まれたEBの一種」であるとした上で、以下のような判示を行って、説明義務違反を認めた。
 まず、判決は、「本件債券の特性からすれば、いわゆる信用リスク、株式償還リスク、流動性リスクを個々に説明するだけでは足りず、買付時から計算日までの約1年間における発行体の信用リスクや参照銘柄の株価の値下がりによるリスクを引き受けなければならないことを原告が具体的に理解できるように説明する必要があるというべきである。」とした。そして判決は、被告証券会社担当社員が、公募EBと比較して私募EBのメリットを強調する説明をした上で、早期償還の可能性が高く、発行日までに早期償還が見込めるかのような説明を行い、株式償還となっても優良銘柄が手に入るからそんなに心配することはないなどと述べて勧誘を行ったことを認定し、また、被告証券会社担当社員の信用リスクに対する意識は低く、被告証券会社では発行体の財務内容を顧客に提供しないといけないことになっていたにもかかわらず、本件の顧客には2年前の決算期の財務内容を提供していたことなどから、被告証券会社担当社員は信用リスクについては提案書や契約締結前交付書面の読み上げ以上の説明は行っていないと認定し、リスクに重点を置いた説明は行われなかったとした。以上から判決は、「このような○○及び△△(注・いずれも被告証券会社担当社員)の勧誘を全体としてみれば、本件債権(ママ)の実際のリスクに比して、リスクが小さいかのような印象を与えるものであり、流動性リスクと相まった信用リスクの存在についての注意喚起としては不十分であったといわざるを得ない。」とし、説明義務違反を肯定した。
 8割の過失相殺は疑問であるが、信用リスクが問題となる事案において、個々のリスクを分断することなく総合的に考慮して説明義務違反が肯定されている点は、実に正当である。