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解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年1月11日判決

●商  品: 株式
●業  者: SMBCフレンド証券
●違法要素: 適合性原則違反、過当取引
●認容金額: 3748万0030円
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト44・1頁
●審級関係: 控訴審で和解


 事案は、司書として図書館に勤務し、両親からの相続で一定の資産を有していた顧客(女性)が、平成15年から平成24年までの信用取引を中心とする株取引等によって、多額の損失を被ったというものであった。
 判決は、顧客の学歴や職歴と理解力、資産の状況等から、信用取引の開始自体についての適合性原則違反や説明義務違反は否定したが、「信用取引を行う適合性自体を有する者であっても、実際に個々の取引を行う上では、現物取引も含め、取引の銘柄、回数、その投資意向との整合性等のいかんによっては、的確に取引の動向を把握することができず、また、投資意向に反するものとして、個々の取引を行う上での適合性が否定されるとともに過当取引として、取引勧誘の適法性が否定される余地はある。」とした。
 そして判決は、まず、本件信用取引開始の前後の取引につき、比較的値動きの激しい銘柄が選定されるなどその選定は安定重視の顧客の投資意向に沿うものとは認め難く、短期取引が多い点でも顧客の安定投資、中長期投資という投資意向、投資方針に沿うものとは言い難いことなどから、それまでの顧客の乏しい取引経験からすると、その適合性に疑問を抱かせるような相当大きな取引を一気に本格化させたものと評価することもできるとした。その後の取引についても、判決は、本格的な取引開始からわずか4か月の間に新規の約定金額が顧客の余剰資産の10倍前後のおそよ4億円となる取引が行われたこと、代用有価証券として差し入れられた銘柄と同銘柄を信用取引で約定するいわゆる2階建ての勧誘も行われたが、これは大きな損失となる危険があり安定重視の顧客の意向にも反するような取引の勧誘であった上に、被告証券会社の内部基準に反する内容の2階建てが行われていたこと、さらには取引回数の多さ(全体で637回)や、取引銘柄が76に及ぶところ個人投資家がこのような多数の銘柄について自ら情報を収集し理解分析することは相当な困難を伴うこと、保有期間が10日以内のものが約63%を占め、手数料が損失額の約55%を占めていること、回転率(いわゆる資本回転率)は取引全体で見て年間17.12回であり(年別の回転率も認定されている)、一般に株式で運用する投資信託の回転率は高いもので4.22〜5.82回、低いものであれば0.52〜0.72回であることと比較しても相当高率であり、適合性に強い疑問を抱かせることなどを指摘した。以上に加え、判決は、顧客の勤務状況に照らせば刻々変動する相場を踏まえて相場動向を主体的に判断して具体的な指示を出せる状況にはなく、まして多数回の短期取引について的確に相場動向を把握して自ら決断することはおよそ不可能であったものと推認されるとし、被告証券会社担当者も顧客に独自の判断で取引を主導する能力、時間がなかったことを十分に認識していたとした上で、提出された通話記録上の通話状況を見ると1分以内で通話が終了しているものが大半を占め、これらの通話状況と注文伝票に示された受注時間を対比すると受注時間と架電時間が概ね一致することから、短時間のうちに取引勧誘と受注が行われていたことがうかがわれるとし、さらに録音されていた会話内容も併せ見て、被告証券会社担当者が本件取引を主導し、いわば盲目的に顧客がそれに従い、取引勧誘に応じていたことがうかがわれるとした。また、判決は、日計りが18回、直しが23回あることも指摘し、これらは顧客が自己の判断で行ったとは考え難く、頻回な特定取引に合理性があったのかには疑問が残るとしている。
 以上から、判決は、「以上のような本件取引開始以後の経緯、本件取引の取引回数、保有期間、損失額に占める手数料の割合、回転率のほか、原告の安定重視という投資意向にも沿わない取引が少なからず行われていること、原告が被告担当者のいいなりになっていた実態等にも照らすと、本件取引は、全体として、適合性の原則に違反し、過当に行われたものであって、被告担当者の勧誘行為は、全体として、不法行為を構成するものといわざるを得ない。」とした。また、判決は、取引の後半ないし終盤に取引回数が減少する傾向が見られることについては、顧客の資金が枯渇する中で現在ある資金の枠内で回転させるしかなかったためで、外務員が顧客の取引を主導している実態に変わりはなく、枯渇した資金量に照らすと、その取引回数は決して少ないものとまではいえず、顧客に適合的なものであったとは容易に認め難いし、過当取引性が否定されるものでもないとして、本件取引全体が適合性原則にも違反する過当取引と評価することが相当であるとした。
 なお、損害に関し、被告証券会社は、手数料相当額だけが損害となる旨の主張や、特定のIT銘柄の暴落等が損失の原因であって顧客が主張する違法原因と本件取引全体の損害の間に因果関係は認められないとの主張を行っていたが、判決は、本件では過当取引だけでなく適合性原則違反も認められることや、本件取引は全体として違法でありこれを行っていなければそもそも当該銘柄を取得しておらず手数料以外の差損を被ることもなく、相当因果関係が認められるとして、被告の上記主張を排斥した。
 4割の過失相殺には疑問が残るが、長期にわたる取引につき、取引の実態に深く踏み込んだ充実した判示が行われている点において、今後の同種被害の救済に関して大いに参考とされるべき判決であると言える。