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解    説

■判  決: 大阪地裁平成24年12月3日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: SMBCフレンド証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 638万4090円、799万4035円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: 判例時報2186・55頁、セレクト43・179頁
●審級関係: 控訴審で和解成立

 事案は、長年にわたり工員として勤務していたが既に勤務先を退職して無職となっていた高齢の夫婦(最初の仕組債購入当時、夫は69歳、妻は71歳)が、平成20年に、仕組債の勧誘を受けて、夫は4回(うち1回は早期償還された)、妻は3回にわたってこれを購入し、多額の損失を被ったというものであった。なお、本件の仕組債はすべて、豪ドル建ての日経平均連動債であり、期限は10年で、基準日の日経平均株価の終値が当初の103%以上(トリガー価格)であれば早期償還され、観測期間中に日経平均株価が一度でも当初の56%以下(ノックイン価格)になれば、以後は日経平均株価の当初価格との比較における下落率に応じた損失が生じる仕組みになっており、クーポンについては、当初3ヶ月は確定しているが(10.56%〜18.7%の間で商品により異なっていた)、以後は基準日の日経平均株価が当初の80%以上(クーポン判定価格)であれば当初利率が適用され、80%未満であれば利率は0.1%となるものとされていた。
 判決は、本件各仕組債の商品特性について、個々の条件は必ずしも難解なものではなく日経平均株価も新聞等で容易に情報を入手できる一般投資家にも馴染みのある経済指標であるとしつつ、「もっとも、利金の利率、償還時期及び償還額のそれぞれが日経平均株価によって変動し、その日経平均株価自体が株式現物等と異なり抽象的な経済指標に過ぎないこと、しかも利率等の変動の基準価格がそれぞれクーポン判定価格、トリガー価格、ノックイン価格という3種類の基準が使い分けられていることなどに照らすと、本件各仕組債は、その仕組みが複雑であるといえ、必ずしも理解することが容易な商品とはいえないものである。」とした上で、原告らの年齢、経歴及び職歴を考慮すれば、「本件各仕組債は、原告らにおいて、その仕組みを理解すること自体相当困難であったと推認される。」とし、「また、本件各仕組債は、前記1(1)のとおり、得られる可能性のある利益は利金の限度であるのに、利金の程度にとどまらない元本毀損の損失を受ける可能性があり(ただし、投資元本を超えて損失が生じることはなく、元本毀損の程度にも一定の限度はある。)、しかも中途売却ができないといった制約があるほか、豪ドル為替リスクといった重要なリスクをも有するなど、種々にわたる相当高度なリスクを有する金融商品であるというべきである。そして、このような本件各仕組債のリスクの内容及び程度に鑑みれば、本件各仕組債は、その購入に当たって、日経平均株価の上昇による期限前償還の可能性を考慮しつつ、満期償還日までの10年間にわたる日経平均株価及び豪ドル為替の変動や発行体である外国金融機関の信用リスクを予測して、投資判断することが必要となる商品であると評価することができる。」(原文のまま)とした。
 そして判決は、顧客のうち、妻には身内に任せて取引を行っていた期間を除いては株取引経験がなく、夫も、持株会や株主優待目的で購入した株式あるいは本件各仕組債購入より後に勧誘を受けて購入した株式以外には株取引がなく、株の売却経験はなかったこと、2度の株式投資信託の購入も、勧誘を受けて、基礎となる商品が株式であるとの十分な認識がないまま購入したもので、金額も約234万円、約212万円に過ぎなかったことから、顧客らが、「株価の変動を主体的に予測できる能力やその予測を基に売買益を狙うような積極的な投資意欲を有していたとは認められない。」とし、むしろ、顧客らの主な投資対象は為替リスクを有するのみで元本毀損との関係では比較的堅実と評価することができる外国債券であったことに照らすと、その投資目的も比較的安全志向であったと評価することができるとした。以上から、判決は、顧客らに「本件各仕組債に関し、期限前償還の可能性や満期償還日までの10年間にわたる日経平均株価及び豪ドル為替の変動、発行体である外国金融機関の信用リスクを予測して投資判断する能力があったとは到底認められない。」とし、さらに、「上記アの本件各仕組債に内包されるリスクの内容及び程度に照らせば、本件各仕組債は、上記イの原告らの取引経験からうかがわれる原告の投資意向に沿わないものであったとも認められる。」(原文のまま)として、最高裁平成17年7月14日判決が判示した適合性原則違反が不法行為となる要件との関係において、本件勧誘行為は適合性原則に著しく逸脱したものとして不法行為法上違法となるとした。(なお、判決は、被告証券会社からの、本件各仕組債は一般投資家に十分理解可能な商品であるとの反論に対し、前記の商品特性に関する認定内容に加えて、被告証券会社が本件各仕組債の勧誘や販売にあたって、リスクや難易度のランクが高いことから特別の社内ルールを設けていたことを根拠に、被告証券会社自身も高齢者や投資経験の浅い者には適合しない可能性があることを認識していたことが明らかであるとの指摘を行って、上記主張を排斥している。)
 次に、判決は、説明義務の一般論の判示に続いて、「本件各仕組債は、前記2(2)アのとおり、その仕組みが複雑であり、そのリスクも相当高いものであるから、原告らの前記属性を考慮すると、本件各仕組債の勧誘に当たっては、原告らの知識や理解力に応じた分かりやすい説明を行うことはもとより、当該説明によって原告らの理解が得られたかどうかを適宜の方法で確認するなど十分な配慮をすべき義務があった」(原文のまま)とした上で、リーフレットに基づく一定の説明があったこと、リーフレットや重要事項説明書にリスクを明示した記載があり、顧客らはこれらの記載を示されながら説明を聞いた上で受領書兼確認書に署名押印したことを認定しつつ、以下のように述べて説明義務違反を肯定した。すなわち、判決は、被告証券会社担当社員は、作成者や作成時期が不明でデータの信頼性にも疑問を持つべき被告証券会社の顧客データ登録内容に基づいて顧客らの投資意向が「一番最上級」の積極的値上がり益重視型であると認識していたという点において、顧客らの投資意向を正しく認識していなかったこと、被告証券会社では上記顧客データ以外にも信頼するに足りる情報は管理されておらず、被告証券会社担当社員は顧客らの投資経験や投資意向に関する質問等をしていなかったことなどから、被告証券会社担当社員は顧客らの属性を正しく把握しようともしていなかったことがうかがわれるとし、加えて、被告証券会社担当社員は顧客調査カードの作成や特認申請の手続を行っていないなど、高齢者や取引経験の浅い者を保護すべく設けられていた社内ルールを履践していなかったことを指摘して、「これらの事情に鑑みれば、○○(注・被告証券会社担当社員)は、そもそも当該顧客の投資に関する知識、取引経験、理解力及び投資意向などを把握できておらず、したがって原告らの知識や理解力に応じた分かりやすい説明をなし得なかったというべきであり、また、○○には、自身の説明によって原告らの理解が得られたかどうかを適宜の方法で確認するなど十分な配慮をして説明を尽くそうとする意識さえも欠けていたといわざるを得ない。」とした。さらに判決は、勧誘時の説明においては、顧客らから質問はされず、被告証券会社担当社員も顧客らの理解をとくに確認することもなく、一方的な説明に終始したことや、被告証券会社担当社員自身が日経平均株価がノックイン価格を割り込むことはないと予測していたこと、顧客らに示された株価は平成18年から平成20年にかけての約2年間のもので、株価が過去に大きく変動していた時期の値動きを示すものではなかったことを認定し、これらが相俟って、被告証券会社担当社員の説明が、顧客らがリスクの内容及び程度を実感を伴って理解できるものにはなっていなかった可能性も十分にあるところ、結果としても顧客らはノックインによる元本毀損のリスクについてほとんど関心を払っていなかったことを指摘し、以上から、前記義務が尽くされていなかったとして、説明義務違反を認めた。
 3割の過失相殺には疑問が残るが、適切な総合判断によって正面から適合性原則違反が肯定されていることや、証券会社の社内ルールにすら反した杜撰な属性把握や手続、一方的で不十分な説明の実態を指摘した上で説明義務違反が肯定されている点において、重要な判決であると言える。