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解    説

■判  決: 大阪地裁平成24年9月24日判決

●商  品: 株式
●業  者: 国際証券(判決時の商号・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)
●違法要素: 過当取引、その他(指導助言義務違反)
●認容金額: 合計2319万0998円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: 判例時報2177・79頁、セレクト43・1頁
●審級関係: 確定


 事案は、会社代表者であった顧客が、平成10年から平成18年にかけて行った株式や投資信託の取引のうち、平成15年以降の約3年間の取引(以下これを「後期取引」と言う)につき過当取引等の違法性があることを根拠に、損害賠償請求を行ったもので、顧客の死亡により判決時にはその相続人らが訴訟を承継して原告となっていた。
 本判決は、過当取引に関し、「証券会社が顧客の取引口座について支配を及ぼし、顧客の信頼を濫用して手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、顧客の資産、経験、知識や当該口座の性格に照らして社会的相当性を逸脱した過当な取引勧誘を行うことが起こりがちであるが、かかる行為は、誠実公正義務に違反するというべきほか、表面的には顧客の希望・意向に沿うものであるかのように見えても、これを実行することにより、顧客に多大の損失を被らせる危険性が高い場合には、かかる取引を制限するよう助言指導すべき義務を負うものというべきである。これに違反する証券会社(担当者)の行為は、金融商品取引法(旧証券取引法)上違法であるのみならず、いわゆる過当取引として、私法上も不法行為を構成するものと評価するべきである。」と判示した上で、違法な過当取引の要件としては、@証券会社が顧客の取引口座について実質的な支配力を及ぼし、A顧客の信頼を濫用して手数料稼ぎ等の自己の利益を図ることを目的として、B顧客の資産、経験、知識や当該口座の性格に照らして、その銘柄数、取引回数、取引金額、手数料額が社会的相当性を著しく逸脱して過当であることを要するとした。
 そして本判決は、後期取引は、もっぱら、被告担当者が対象銘柄、成行・指値の別や指値額、時期等を選別・提案し、これに顧客が了承を与えるという形態で行われていたことや、上記被告担当者が担当となった直後のものを除いては顧客が被告担当者の提案を断ったことが一度もなかったこと、その他証拠上明らかになった電話でのやりとりなどから、被告担当者は顧客が事実上言いなりであったことを奇貨として多額の手数料収入を得るべく短期かつ頻繁な投機的取引を3年もの長期間にわたって行わせていたとし、さらに、それまでの取引の対象銘柄が31銘柄であったのに対し後期取引は165銘柄に及んでいたこと、売買回数もそれまでの取引の106回が後期取引では564回にも及び、保有期間も0〜30日以内が全体の75.9%を占め、その多くが後期取引におけるものである上、「出し入れ取引」も少なからず行われていたこと、資金回転率もそれまでの取引では0.81回であったものが後期取引では14.16回にも及んでおり、手数料率もそれまでの取引が706万8516円であるのに対し後期取引では2280万8429円となっていたことから、後期取引は客観的に見て過剰な取引であったとした。また、本判決は、かかる過剰な取引の勧誘には、それまでの取引による損失を取り戻したいという顧客の意向・方針に沿った面もあったとしつつ、「証券取引の専門家であり、顧客から委託を受けて顧客に対して誠実公正義務を負う証券会社の担当者としては、顧客のかかる素朴とも言える希望・方針に盲従して、リスクが大きく、手数料もかさむ短期頻繁売買を安易に提案するのでなく、そのようなリスク及び手数料額について顧客に十分説明し、その理解を得るよう努める指導助言義務を負うというべきである。」とした上で、本件ではかような指導助言義務が尽くされたとは到底言えないとし、このことをも考慮した上で、「被告担当者らのかかる行為は、誠実公正義務違反ないし助言指導義務違反があったものというべきであり、後期取引はいわゆる過当売買に当たるものとして、私法上も不法行為責任を免れないというべきである」と結論付けた。
 なお、本判決は、顧客が主張していたその他の違法要素(適合性原則違反等)は否定し、損害については、後期取引によって生じた損失のみを認めて、それまでの取引で購入していた証券を後期取引のために売却して生じた損失についてはこれを損害に算入しなかった。また、取引自体は後期取引以前から継続的に続いていたため、後期取引による損害の算定方法にも争いがあったが、本判決は、後期取引開始時に顧客が保有していた証券の評価額が、後期取引終了時までにどの程度その評価額を下落させたかという観点で、同下落分をもって損害の額とすべきであるとし、さらに、後期取引終了時に直ちに損切りすることを顧客に期待するのは困難である上に合理的でもないとして、後期取引終了時から約1年を経過し、顧客の妻が被告証券会社に問い合わせの電話を行った頃である平成19年5月31日の保有証券の評価額を基準とするのが相当であるとして、かような計算に基づいて損害額の算定を行った(過失相殺3割)。
 過当取引を肯定した判決は珍しくはないが、指導助言義務が重視され、その違反が認められて勧誘行為全体の違法評価に反映されている点において、今後の被害救済に大いに役立つ有意義な判決であると言える。