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解    説

■判  決: 横浜地裁平成24年1月25日判決

●商  品: 投資信託
●業  者: 東海東京証券
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 300万0665円
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト42・129頁
●審級関係: 確定


 事案は、昭和6年生まれの高齢の女性が、平成20年に勧誘により投資信託(ブラックロック天然資源株ファンド)や南アフリカ・ランド建債券を購入して損失を被ったというものであった。なお、本件投資信託は、主として世界のエネルギー関連株、鉱山株、金鉱株を主要な投資対象とし、ブラック・ロック・グループの運用会社が運用する投資信託に投資するもので(ファンド・オブ・ファンズ形式)、外貨建資産については原則として為替ヘッジは行われないというものであった。判決は、かような本件投資信託のリスクの程度について、「株式を対象とする投資信託としての各種リスクのほか、為替リスク等をも抱えた商品であって、かなりのリスクを含むものであった」としつつ(なお、R&Iの評価ではRC5、被告証券会社の内部基準でも4段階評価で2番目にリスクが高いR3に分類されていたと認定されている)、投機性が高い極めて危険な投資対象とまでは言えず、分散投資も行われていることから、一般顧客に勧めることが許されないようなリスク商品とまでは言えないと判示している。
 判決は、本件取引当時の原告の知的能力は相当程度低下していたとの原告側の主張を排斥し、投資経験や投資意向についても、原告が安全性を重視していたことは事実であるとしつつ、過去の取引には外国の債券・株式等を対象とした投資信託や外国債券に対する投資が少なからず見受けられるとして、原告の投資目的は安全性、安定収益のみを重視していたわけではなくある程度のリスクも許容するものであり、このようなリスク商品について相当程度の取引経験を有していたと認定した。また、判決は、取引申込書に記載された原告の金融資産は3000万から5000万円、総資産は1億から3億円となっていたことから、相当程度の資産を有していたと認定しつつ、多額の継続的収入があるような状況ではなかったことは明らかであったから、これらを完全な余裕資産と見てしまうのは疑問であり、取り崩して生活資金や病気の治療費等として利用する可能性のあるものであったことを前提に検討する必要があるとした。そして、判決は、本件投資信託はリスクが相当高い商品であったことを理由に、「原告は相当程度の資産を保有しているとはいえ、継続的に高額の収入があるわけではなく、いずれは生活資金や病気の治療費等を保有資産に頼らざるを得なくなる状況になることも考えられたのであるから、そのような原告に対し、ブラックロックファンドのような商品を勧めるのに当たっては、投資の結果によって原告に大きな打撃を与えることのないよう配慮する必要があるものというべきである」とした上で、従前の原告の取引においては1つの商品への投資額はせいぜい数百万円単位であって1000万円を超える投資はほとんどないことを併せ考えると、「76歳という高齢であって高額の継続的収入はなく、資産の安定性、安全性という面にも配慮が必要な原告に対し、それまで投資の対象としたことはない新規の商品であり、しかも、リスクが相当程度高い商品について、いきなり1100万円、更にその僅か3か月後には103万9236円と、合計1200万円を超える投資を勧めた点は不相当であり、適合性原則に違反するといわざるを得ない」として、適合性原則違反による不法行為を認めた。また、判決は、被告証券会社担当社員が、本件投資信託とともに安定配当が見込める投資信託を紹介したところ、原告が本件投資信託を選択したと供述している点については、本件投資信託への高額投資を勧めること自体が適合性原則違反である以上、被告の責任を免れさせるものではないと判示している。(ランド建債券については、リスクの程度や投資金額の違いから、適合性原則違反はなかったとされており、本件投資信託についてもランド建債券についても、一応の説明はあったとの認定や原告の投資経験に関する認定を根拠に、説明義務違反は否定されている。)
 なお、原告は本件投資信託を保有したままであったが、判決は、口頭弁論終結時直近の基準価格を基礎に損害を認定している。また、被告証券会社からは、原告は別の投資信託を売却して本件投資信託に買換えたものであるところ、この買換えによって、別の投資信託を保有していた場合に生じたはずの損失を免れたとして、かかる損失に関する損益相殺の主張がなされていたが、判決は、仮に買換えなかったとしても、別の投資信託を現在まで保有していたとは限らないとして、かかる主張を排斥している。但し、判決は、かかる買換えに際して2つの投資信託が紹介され、原告自らが本件投資信託を選択したことを理由に、4割の過失相殺を行った。