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解    説

■判  決: 東京地裁平成23年8月2日判決

●商  品: 投資信託(仕組投資信託/ノックイン型投資信託)
●業  者: その他・・・中央三井信託銀行
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 84万6205円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト41・1頁
●審級関係: 確定


 事案は、最初の投資信託の購入当時79歳であって、元本割れリスクがある取引の経験がなかった主婦が、預金先であった被告銀行から、ノックイン型投資信託を勧誘されて購入し、当初購入したものは早期償還されたが、償還金によって再度購入したものについて損失が生じたというものであった。なお、判決の認定によれば、本件投資信託は、期間は3年で、日経平均株価の推移によっては早期償還され、早期償還されない場合には、日経平均株価が一度も購入時の当初株価の70%(ワンタッチ水準・いわゆるノックイン条件)以下に下落しなければ償還日に元本全額が償還されるが、一度でも70%を下回った場合は、償還時の下落割合に応じた元本割れの損失が生じるというものであった。
 判決は、このような本件投資信託につき、損失が元本の相当部分に及ぶ可能性があることや、株価が上昇しても得られる利益は分配金または償還時に元本に上乗せされる上限(1万円あたり50円)に限定されていることから利益に比べて被り得る損失が大きいこと、平成2年以降は日経平均株価は頻繁に30%以上の下落幅を示していること、期間が3年と長期であることを指摘して、相当にリスクの高い取引類型であるとし、これを販売する被告においては顧客の適合性を慎重に判断する必要があったとした。その上で判決は、前記の顧客の属性等や、顧客がほぼ唯一の金融資産である定期預金等を解約して当初の投資信託を購入し、さらにその償還金で購入した投資信託で損失が生じていることから、相当程度の損失を覚悟してまで積極的に利殖を図る資産運用を図る意図を有していたとは考えられないことを指摘し、販売用資料を示しながら説明が行われたことを考慮してもなお、顧客が自らの責任で投資判断が可能な程度にまで本件投資信託を理解し、その高リスク性を認識した上で購入したと評価することはできないとして、適合性原則違反を認めた(なお、最初の投資信託が早期償還されて利益となっていた点については、判決は、リスクが現実化したわけではなかったことから、商品特性を理解する十分な経験になったとは考えられないと判示している)。
 但し、本判決は、複数の金融商品が紹介された中から顧客が本件投資信託を選択したことや、担当社員の商品説明によって不十分ながらも一定の理解をしていたこと、同居していた孫が購入手続の一部に関与していたことなどを指摘して、8割の過失相殺を行った。また、別途、損害賠償請求の対象とされていた、債券や株式等に分散投資するタイプの投資信託については、勧誘の違法性が否定されている。
 8割の過失相殺は極めて問題ではあるが、信託銀行による投資信託の勧誘、販売について適合性原則違反が肯定された点においては、意義のある判決である。