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解    説

■判  決: 名古屋地裁平成22年9月8日判決

●商  品: 投資信託、外債
●業  者: 野村證券
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 5427万3532円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト38・13頁、金融・商事判例1356号52頁
●審級関係: 控訴


 事案は、精神疾患に罹患していた顧客が、平成6年から平成18年に死亡するまでの間に行っていた投資信託や外債などの証券取引による損失につき、その相続人が被告証券会社への損害賠償請求を行ったというものであった。なお、本件取引は長期にわたることから、担当社員の交替が繰り返されたが、とくに3人目の担当社員の時期の高額の売買代金によるハイリスク型投資信託(ほとんどはRC5段階分類で4あるいは5のランク)や外債の取引が、多額の損失を招くに至っていた。
 判決は、顧客が治療を受けていた各医療機関から取り寄せられた記録や、2名の医師の証言などに基づいて、顧客の病状を認定した上で、その収入や資産状況、堅実な性格、他社での証券取引は被告証券会社でのそれとは比較にならないほど少ないものであったこと、その生活状況や資産状況に照らせば証券投資のために資産を殖やす必要はなかったと言っても過言ではないこと、などを認定した。他方で、判決は、本件取引の内容と各時期の担当社員(5名)の証言を子細に検討して、ノルマを課せられていた担当社員らの熱心な営業活動を主たる要因として取引が開始されたこと、以後も担当社員らの積極的な勧誘によって取引が行われていたことを認定した上で、担当社員らの、顧客の意向によって顧客が主体的に取引を行っていた、顧客の精神疾患は全く知らなかったとの証言を排斥し、とくに担当社員ら全員が揃って、顧客の精神疾患を全く知らなかったと証言した点は明らかに虚偽であると断じた。さらに判決は、顧客が取引継続中に不幸にして死亡したため自ら取引の実情を語ることができないことを指摘した上で、かような特殊事情の下での担当社員らの虚偽証言は、適合性原則違反等に関する事実認定において重く受け止められるべきであることを指摘した。
 以上により判決は、各担当社員らは、概ね顧客の精神疾患を把握しながら、処方薬の適切な服用により時期によっては症状があまり顕在化しないことを奇貨とし、かかる精神疾患のほか、本来的に証券投資に関する知識経験が十分ではなく、営業担当者に依存する傾向が強い顧客に対し、思うがままに取引を勧誘し、本件取引を継続していたものと認められ、かかる勧誘行為は適合性原則に著しく違反するものであって、強い違法性が認められると判示した。
 そして、判決は、本件損害は担当社員らの故意の不法行為によってもたらされたというべきであるから、顧客の親族において顧客の財産管理への関与如何につき何らかの落ち度が認められるとしても、それを理由として被告証券会社が顧客ないしその相続人に損害賠償すべき額が減じられるべきものではないと判示して、被告証券会社の過失相殺の主張を排斥した。(なお、本件では、顧客が受領していた配当金等との損益相殺に関し、被告証券会社が控除していた源泉徴収税も損益相殺の対象として損害額から控除されるべきか否かも争点となったが、判決は、かかる源泉徴収税は顧客がその一連の金銭の動きに全く関与していない点で利益としての現実性に乏しく、損益相殺の対象として相応しいとは到底いえないとして、これを損益相殺の対象に含めなかった。)
 疾患や高齢のため判断能力に問題がある顧客の被害事案においては、疾患の悪化や死亡により顧客自身の証言が得られないまま訴訟を追行するしかないケースもしばしば見受けられるところ、本判決は、このような事案の手本となるべき丁寧で常識的な事実認定を行って、全面的な被害救済を果たしており、高く評価すべき判決であると言える。