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解    説

■判  決: 大阪地裁平成22年8月26日判決

●商  品: 投資信託(仕組投資信託/ノックイン型投資信託)
●業  者: その他・・・池田銀行(現・池田泉州銀行)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 225万9748円
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: セレクト38・173頁、判例時報2106号69頁、判例タイムズ1345号181頁、金融・商事判例1350号14頁
●審級関係: 
控訴審にて過失相殺1割を前提に算定した金額で和解成立(セレクト38・216頁)。


 事案は、一人暮らしの高齢の女性(取引当時79歳)が、被告銀行の支店長らから訪問勧誘を受けて、平成20年3月、5月、7月、9月の4回にわたり、いずれも同行に預けていた預金等を原資として、各500万円・合計2000万円で、いわゆるノックイン型投資信託(ノックイン条件付き日経平均連動債を運用対象とする仕組投資信託)を購入させられ、その後の株価変動で損失(4つのうち1つは訴訟中に償還により損失が確定、その他は保有を継続しており含み損の状態)が生じたというものであった。なお、最初に購入されたものを例として本件投資信託の概要を見ると、3年の償還期間の間、日経平均株価が購入時の65%以上ならば元本全額が償還され、一定の分配金等(実質は仕組債の利金)が入るが、一度でも65%を超えた下落になれば、償還時の下落割合に応じた元本割れの損失が生じ、かつ、株価が如何に上昇しても、予め目標として設定された分配金等しか得られない(早期償還がなく3年間保有した場合、分配金合計は元本の6.66%)というものであった。
 判決は、原告が主位的に主張していた契約不成立や錯誤については、複数の手続書類(約定書や確認書など)の存在や、勧誘時に一応の説明がなされていたことから否定したが、予備的に主張されていた損害賠償請求につき、適合性原則違反及び説明義務違反による不法行為を肯定し、被告銀行に結審時の損害の8割と弁護士費用の賠償を命じた。
 すなわち、まず、判決は、「本件各投資信託の特性」として、日経平均株価の変動等の市場リスク、信用リスク、銘柄集中リスクがあることを指摘した上で、@確かにリスクが軽減されている面もあるが、利益は一定の分配金等に限られる一方で、損失は元本全額に及び得る(但し最終株価の当初株価比であるから一定の限度はある)ことから、リスクに比して利益が大きいとは言えない、A解約は毎月20日を受付日とする解約に限られるため、購入者は、償還日までの長期的な経済状況、株価市況の予測をしながら、購入後にも、株価の動向に注意を払う必要がある上、日経平均株価の動向に機敏に対応することができない、B償還日までに日経平均株価がワンタッチ水準(注・いわゆるノックイン条件を指す)を下回るか否かを予測することは困難であり、一度でもワンタッチ水準を下回った場合には元本は保証されないのであるから、元本保証を重視する投資家には適さない商品というべきである、Cワンタッチ水準自体についても、日経平均株価の変動とは無関係に目標分配額が定められており、その額が逓減することや早期償還条件が定められていることから、高齢で取引の経験、知識のない原告にはその内容の理解は困難である、との判示を行った。
 続いて判決は、「投資態様」として、同種商品に半年という短期間に2000万円もの金額が投資されたことから「リスクの分散が考慮されていない」との指摘を行い、「原告の取引経験、知識」として、原告には相続した株式を売却した以外に株式取引経験がなく、かつて他の銀行から投資信託を購入したことがあったものの本件勧誘時にはこれを忘れており、これ以外に投資信託の購入経験がなかったこと、原告には証券取引についての知識がほとんどなく、日経平均株価の理解についても、テレビのニュースで聞いたことがあるという程度であったことを認定し、「原告の投資意向」として、元本を重視する慎重な投資意向であって、実際にも原告は、本件各投資信託が元本を保証する見込みであると考えたからこそ購入を決めたというべきである、との判示を行った(なお、判決は、原告保有の預貯金は約5000万円であり、年金以外に月78万円程度の賃料収入があったと認定している)。さらに、判決は、被告銀行の内部基準では、原告のような高齢者への勧誘による販売はできなかったにもかかわらず、被告銀行支店長らが、原告からの申出として処理することで販売を可能とする扱いをとっていたことや、これも被告銀行の内部基準上、原則として家族の同意や同席が必要であるにもかかわらず、被告銀行支店長らは、原告の娘が同一都道府県内に住んでいることを知りながら、一人暮らしの原告が「娘には言いたくない」と答えたことをいいことに、家族の同意確認を怠った旨を認定した
 以上により判決は、「○○(注・被告銀行支店長)及び△△(注・被告銀行担当者)は、投資経験及び知識がほとんどなく、慎重な投資意向を有する79歳という高齢の一人暮らしの原告に対し、相当のリスクがあり、理解が困難な本件各投資信託の購入を勧誘し、定期預金、普通預金や個人年金という安定した資産を同種のリスク内容の投資信託に集中して投資させたものであり、原告の意向と実情に反し、過大な危険を伴う取引を勧誘したものである上、○○及び△△が、被告の内部基準を形骸化するような運用をして本件各売買契約を成立させたものであるから、適合性の原則から著しく逸脱した投資信託の勧誘といえる」として、適合性原則違反による不法行為を認めた。
 また、判決は、説明義務違反については、担当者らからは、条件付きで元本が保証される、定期預金より高い利回りが期待できるといった説明のほかに、預金ではなく投資信託であることや、グラフを示しながらワンタッチ水準の説明がなされるなどして、一応の説明は行われていたとの認定を行った。しかし、判決は、原告の年齢や経験、知識の乏しさに照らし、「本件各投資信託は、その内容を理解することが容易ではなく、将来の株価予測というおよそ困難な判断が要求され、また、元本割れのリスクも相当程度存在するにもかかわらず、条件付きの元本保証、という商品の特性により元本の安全性が印象づけられることから、当該条件については特に慎重に説明する必要があった」とした上で、担当者らは本件各投資信託の投資対象や運用益についての知識は持ち合わせておらず、その研修もなされていなかったことから、そもそも販売する側に知識不足があり、そのような者が十分な説明をできるかは疑わしいと指摘し、さらに、勧誘を受けた原告が不安も述べずにその場で直ちに購入を決めていたことなどから、原告は本件各投資信託の内容を具体的に理解できず、また、そのリスクを現実味を帯びたものとして理解できていなかったと認められるとの判示を行った。そして、判決は、担当者らは、原告が元本保証を重視していることを知っていたのに、過去の株価の変動状況や、今後の株価予測の参考となる情報を提供しないて、ワンタッチ水準となる価格を示したのみであったことから、担当者らが本件各投資信託の危険性を具体的に理解することができる程度の説明をしたとは認められないとし、さらに、担当者らは、原告とのやりとりなどによって、販売用資料に沿った一応の説明では原告が本件各投資信託の危険性を具体的に理解できないことを容易に認識できたといえると判示した。以上により、判決は、説明義務違反による不法行為の成立を認めた。
 2割の過失相殺には疑問が残るが、おそらく本判決は銀行による投資信託販売についての初の顧客勝訴判決であり、仕組み商品でありながら投資初心者への勧誘、販売が行われて大きな問題になっているノックイン型投資信託についての初の顧客勝訴判決でもある点において、先例的意義を持つ判決であると言える。また、勧誘を行う支店長ら自身が知識不足のままで、内部基準を形骸化するような運用にて有利性や安全性を強調する勧誘を行っていたことが認定されている点も、仕組み商品の勧誘の実情を示すものとして、注目に値する。
(なお、本件は、控訴審・大阪高裁にて、平成22年12月22日に、過失相殺を1割として計算することを前提に、実損額の9割に、その1割相当の弁護士費用及びこれらについての遅延損害金を付して算定した支払額にて和解が成立しており、一審判決よりさらに手厚い内容での救済が果たされている。)