[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成22年3月26日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 8537万2111円(法人)、2882万4111円(会社代表者)
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: セレクト37・73頁、金融商事判例1358・57頁
●審級関係: 
控訴審にて一審判決の主文どおりの内容で和解成立(セレクト38・169頁)。


 事案は、株式会社(以下「原告会社」)とその代表者が勧誘を受けて平成18年に2種類の私募の仕組債を代金各1億円で購入し(1回目は会社と代表者が5000万円ずつ購入、2回目は会社だけが1億円で購入)、平成20年に売却して、これらの債券について取得した利金を算入しても原告会社につき約9700万円、代表者につき約3280万円の損失が生じたというものであった。なお、判決の認定によれば、原告会社は、平成17年3月期の売上高が約21億円以上で、当時は業績が好調であり、代表者は、本件取引当時の年収は約1億2000万円の資産家であった。さらに、これも判決の認定によれば、問題の仕組債は、プロテクション付きノックインプット・エクイティリンク債と呼ばれるもので、いずれも償還期限は3年で、金利は10%台で確定していたが、購入額1億円に対して想定元本は10億円であって、対象とする株式10銘柄のうち1銘柄でも株価が基準価格の50%(1回目の債券)ないし65%(2回目の債券)を下回るとノックインとなって損失の計算対象となり、3年後までに株価が基準価格に回復していなければ損失として確定するというもので(但し損失は1億円の元本に限定される)、2回目の債券には対象の10銘柄の株式の平均株価が基準価格の105%となった場合には元本が償還される早期償還条件が付されていた。
 判決は、まず、上記仕組債を「その内容を理解することが困難な、非常に複雑な仕組みの私募債であるといえる」とした上で、以下のような判示を行って、「ハイリスクで賭博性の高い商品であると認められる」と結論付けた。
  「本件各債券は、3年間保有することで年10%以上のクーポンがつくが、1銘柄でも、ノックインし償還期限までに基準価格に回復しなければ元本をすべて失うリスクさえあり、元本を失う以上の損失は発生しないものの、ハイリスクの商品といえる。3年間で10銘柄の株価がノックインするかしないか、ノックインしても株価が基準価格まで回復するかどうかを予測することは、プロの投資家であっても困難なものであり、リスクの実現する可能性が高いのに対して、利益が年10%程度のクーポンに限定されることから、本件各債券を購入する投資家にとって、リスクに比して利益が大きいとはいえない。本件債券2については、早期償還条件が付されているが、これもある一定の時期における対象10銘柄全部の平均株価が基準価額の105%に達した際に、償還条件を満たすというもので、上記のとおり、株価の予測が困難であることからすれば、早期償還条件を満たすかも偶然性が強いものといえる。また、上記認定事実のとおり、対象銘柄に1億円ずつ10億円を投資するというのは想定元本にすぎず、顧客が本件各債券を購入しても、その資金が実際に対象銘柄に投資されるわけではないし、本件各債券を購入することにより、対象銘柄の資金調達や現実の株価市場に影響を及ぼすものでもなく、経済的な合理性があるとはいい難い。また、本件各債券を販売することで、被告ないしその発行体は、年10%以上のクーポンを3年間顧客に支払うこととなるところ、被告ないし発行体がどのようにして利益を挙げ、クーポンの資金源を確保しているかが明らかではなく、その正当性にも疑問がある。さらに、本件各債券は、一般の市場に転売することができず、被告の算定した時価で被告に買い取ってもらう以外に、処分の手段がないところ、被告の算定した時価が適正であるという保証もなく、流通性にも疑問がある。」
 その上で判決は、原告会社は、本件取引以前には、取引銀行からの要請を受けて金利及び償還期限が為替に連動した仕組債を購入したことがあり、被告証券会社では1回の新規公開株の取引しか行っていなかったことや、代表者も、本件取引以前は、新規公開株の取引を主に行っており、本件取引後も、被告証券会社に5000万円を預託したことがきっかけで以前より頻繁に株式取引を行うようになったものの、必ずしも投資に積極的な姿勢であったとはいえないこと、代表者には金融商品についての特段の知識がなく、本件取引についての原告会社の担当者であった経理担当社員も、AFPの資格を保有してはいたが、特段デリバティブには詳しくなかったこと、原告会社は収益性も安定性も重視する投資方針であり、積極的な投資によってことさらに利益をあげようとする姿勢はうかがえず、取引銀行からの要請はある程度受け入れる以外は比較的安定性を重視した取引をしてきたことを指摘し、「原告らは、仕組債や株式の取引に一定の理解があったことは認められるが、いわゆる一般投資家としての域を出ず、これまで、積極的に投資をして収益を求める態度にもなく、その投資方針からしても、本件各債券のような複雑な仕組みのハイリスクな商品を購入するだけの適合性があったかは疑問である」とした。
 そして判決は、本件各債券の仕組みが非常に複雑であることや、上記の適合性への疑問から、特に誤解を与えないような説明が必要であったとした上で、被告証券会社の担当社員は、原告会社の担当社員に対し、株式のチャートを見せるなどして、本件各債券の対象銘柄がいずれも優良企業であり、ノックインの可能性は低いこと、仮に1銘柄がノックインになっても、クーポン(金利)で損失を補填できるとしてことさらにリスクが小さいように強調したこと、2回目の債券の早期償還条件についてもこの条件の実現性が高く利益が得られる可能性が高いと説明したことを認定し、かような説明は不十分で誤解を与えるものであったとし(結果としても原告側は本件各債券は1億円ずつ10億円を集めて株式に投資すると誤解していたと認定されている)、さらに、購入後においても対象銘柄の株価の情報や本件各債券を保有し続けるかについての十分な情報提供が行われなかったとの指摘や、説明資料がすべて交付されていたとしても、難解な内容であり、口頭での説明なしに資料を自分で読んだだけでは到底正確な理解は困難であるとの指摘も行って、説明義務違反を認めた(なお、原告側は錯誤無効の主張も行っていたが、これは、動機の表示がなかったことなどを理由に排斥されている)。
 本判決は、錯誤無効の排斥や適合性原則違反の判断を避けた点(上記のとおり「疑問である」との指摘にとどまっている)は不満が残るものの、仕組債の問題構造を正面から見据えて的確な判示を行った初めての判決と言っても過言ではなく、株式会社とその代表者たる顧客の投資意向や投資に関する知識経験等をその具体的内容に踏み込んで認定して、過失相殺を2割にとどめた点と併せ、先例的意義を持つ重要な判決であると言える。
(なお、本判決に対しては、双方から控訴がなされ、控訴審・大阪高裁にて、平成22年12月10日に一審判決の主文どおりの内容で和解が成立している。)