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解    説

■判  決: 名古屋地裁平成21年3月17日判決

●商  品: 株式
●業  者: 丸八証券
●違法要素: 無断売買、過当取引
●認容金額: 2696万2954円
●過失相殺: 8割(過当取引部分)
●掲 載 誌: セレクト33・43頁
●審級関係: 控訴審で和解


 本件は、平成16年11月から同18年1月までの一任勘定取引中の過当取引と一任勘定取引終了後の無断売買が問題となった事案である(なお、判決の認定事実によれば、被告証券会社は、平成17年6月には、証券取引法上禁止されていた一任勘定取引を締結する行為を行っていたことにより、金融庁から業務停止命令及び業務改善命令を受け、平成19年10月には再度、同様の処分を受けていた)。
 まず、判決は、どちらから言いだしたかはともかく、上記の期間中、一任勘定取引が行われたと認定した上で、年間売買回転率が約28回であったこと、手数料を最終損失額で割った手数料率が90.41%であったこと、月平均約23回の極めて頻繁な取引が行われていたことなどから、取引の過当性を肯定した(なお、判決は、もともと本件の投資家の取引は新興市場の株式を短期間で売買して利益を得るというもので、一任勘定取引開始直前の取引においても、年間売買回転率は約10回、月平均取引回数は約6回となっていたことをも指摘したが、それでも、本件一任勘定取引は回転率は3倍近くに、取引回数は4倍近くに増大していることから、過当性が認められるとした)。また、判決は、一任勘定取引であったことから口座支配性を認め、さらに、どちらから言いだしたにせよ禁止されている一任勘定取引を漫然と受託した担当社員の行為は誠実公正義務に違反することや、前記のとおり被告証券会社は平成17年6月に一任勘定取引を理由として処分を受け、内部管理体勢の充実・強化に取り組んだとしながら、その後も本件の一任勘定取引が継続され、他にも被告証券会社では一任勘定取引が行われ、平成19年10月には再度の業務停止命令及び業務改善命令を受けて、担当社員は本件取引のこともあって諭旨免職となったという経緯を指摘して、このような担当社員や被告証券会社の遵法精神に欠ける体質も、顧客の利益に反して手数料稼ぎを行っていたことを推認させる事情といえるとするなどして、「新興市場の株式を短期間に売買して利益を得るという原告の取引手法からくる必然的な要請を考慮したとしても、一任勘定取引中に○○(注・担当社員)の行った頻繁な売買は、手数料稼ぎのために原告の利益に反して過当な取引を行っていたものと認めるのが相当である」と判示して、過当取引による不法行為を認めた(取引上の損失が損害と認められたが、原告が歯科医院を経営する医師であり証券取引について十分な理解力、判断力を備えていることや過去の取引経験などが重視され、被告側の遵法精神に欠ける体質などを考慮してもなお、8割の過失相殺が相当であるとされた)。
 また、判決は、無断売買であったか一任勘定取引継続中の取引であったかが問題となった平成18年9月の株式の買付については、客観的な取引内容や投資家と担当社員のやりとりの内容(被告証券会社から録音テープが提出されたようである)から、一任勘定取引は平成18年1月には終了していたとの認定を行った上で、上記買付の一部は投資家の個別の指示があったといえるが、その余の買い増し(事前に投資家の個別の同意がなかったことは担当社員も認めていた)は無断売買であったとして、その買付代金相当額につき投資家の預託金返還請求を認めた。