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解    説

■判  決: 大阪地裁平成21年3月4日判決

●商  品: 株式
●業  者: 日興證券(日興コーディアル証券)
●違法要素: 適合性原則違反、購入時の助言義務違反(指導助言義務違反)
●認容金額: 437万8974円
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: セレクト33・1頁、判時2048・61頁
●審級関係: 控訴


 本件の投資家は、昭和9年生まれの男性であり、かつては会社員であったが平成9年に定年退職して無職となり、収入は年金のみで、資産としては自宅の他に預貯金約3800万円を有していた。また、平成11年に被告証券会社との取引を開始するまでは、勤務先の持株会で勤務先の株式を取得した以外には株式取引経験はなかった。そして、被告証券会社との取引開始当初は、社債や中期国債ファンドの取引のみが行われていたが、平成12年10月、投資家は担当社員からNTT株の第6次売出し及び公募についての勧誘を受け、中期国債ファンドをすべて解約すれば何株購入できるかを担当社員に尋ねたところ、28株購入できるとの説明を受けたため、25株を代金約2370万円で購入するに至った。その後も、2銘柄の株取引が行われたが(但しNTT株のような多額の購入ではない)、結局、株価が下落し、平成14年にすべてを売却することとなり、NTT株については約1330万円の損失が生じた。以後は、株の短期取引や投資信託の取引が繰り返され、約184万円の利益が生じた。
 このような事案において、判決は、NTT株購入以降の取引全体を一連の取引と構成した投資家側の違法主張を否定し、NTT株以外の取引の違法性も否定したが、損失の大半を占めるNTT株については、投資家の損害賠償請求を認めた。
 すなわち、判決は、NTT株自体には特別大きなリスクがあるとは言えないとしつつ、投資家には株式取引について通常の社会人程度の理解はあったが、自ら注文して行う初めての株取引であったNTT株の購入時において株式取引の仕組みやリスクを十分認識していたというには疑問があり、それまでの取引の経緯からしても、証券会社の推奨に易々と従う傾向があって、自ら株式取引の危険性を認識しながら自主的な判断に基づいて取引を行うだけの知識や理解力を有していたとはいえないと判示し、投資意向についても、口座開設時の申込書に投資資金の性格は「余裕資金」、投資目的は「貯蓄型」との記載があることや、それまでの取引内容からして、NTT株購入までは貯蓄中心の取引を指向し、積極的な投資意向を有していなかったと認定した上で、本件のNTT株の購入は投資家の財産状況からすると余裕資金で投資を行うとの意向や貯蓄型の取引を希望する意向に反しており、このように投資家の意向が変化した理由は担当社員がNTT株のメリットを示しつつ推奨したことにあるとした。以上に加え、被告証券会社の取引日記帳によれば同期間に本件の担当支店でNTT株を購入した顧客の購入株数は5株以下が大半で10株以上は5.7%程度、20株以上は2.4%にすぎず、投資家の購入株数は突出して多かったことを指摘した上で、判決は、NTT株25株の購入は投資家にとって過大な危険を伴う取引であったと判示した。
 そして、判決は、25株という株数を決定したのは投資家であることを前提としながらも、担当社員は、投資家の属性や投資経験、意向を知り、被告証券会社に預託された資金が投資家のほとんどすべての金融資産であることも知っていた解すべきであること、投資家が担当社員の説明や推奨を易々と受け入れる傾向のある顧客であるとの認識も有していたものというべきであることから、担当社員は、投資家から25株の申込を受けた際に、投資家にとって明らかに過大な危険を有する取引であることを認識し得たとし、また、担当社員は、投資家が25株という株数を決定したのは担当社員の推奨や投資家からの購入できる株数の質問に対する説明に強く影響された結果であることも容易に認識し得たし、25株が突出して大量の注文であることも知っていたとして、投資家からの25株の申込に対し、担当社員は、「原告においてその取引の危険性を認識しているかどうかを確認し、購入株数が過大であることを指摘して再考を促す等の指導、助言をする信義則上の義務を負っていたものというべきであり、同義務を果たさずに行われた勧誘行為は、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘する行為と同視することができ、証券取引における適合性の原則から著しく逸脱したものであって、不法行為法上違法となるというべきである」とした(過失相殺7割)。
 過失相殺割合は大きいものの、投資家自らが購入株数を決定したという前提の下で、投資家の経験、意向、財産状態等や取引に至る経緯を子細に検討して「明らかに過大な危険」を肯定し、オプション取引に関する最高裁平成17年7月14日判決(民集59巻6号1323頁)の補足意見における「指導助言義務」を応用しつつ、結論として適合性原則違反を肯定した点において、先例的意義を有する画期的な判決であると言える。