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解    説

■判  決: 大阪高裁平成20年8月27日判決

●商  品: 株式
●業  者: エース証券
●違法要素: 過当取引、事後の助言・情報提供義務違反
●認容金額: 1583万7569円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト32・64頁、判時2051・61頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴、確定


 本件は、輸入仲介等の業務に携わる自営業者である顧客が、信用取引を中心とした継続的取引による損失について損害賠償請求を行ったというもので、一審(本人訴訟として行われた)では顧客が全面敗訴となったが、控訴審から顧客が弁護士を選任し、顧客が主張していた適合性原則違反、無断売買、善管注意義務違反・過当取引、助言義務違反のうち、過当取引と助言義務違反が認められ、一部逆転勝訴となった(過失相殺8割)。
 本判決は、顧客の経歴や職業、本件の証券会社を含めて7社との取引経験があったこと、十分な余裕資金を有していたこと、株式取引に関する豊富な投資経験や知識を有していたことなどから、適合性原則違反を否定し、無断売買についても、信用取引については事後承諾のケースがあったことを認定しつつも、顧客の黙認ないし追認があったとした。また、本判決は、顧客が主張していた条件付き一任の合意についても、これを認めなかった。
 しかし、本判決は、本件取引以前の顧客の取引(他社取引を含む)は、回数も金額も少なかったり、回数が多い場合でも比較的抑制的な内容であったのに対し、本件取引は月間新規買付総額も各月末投資残高も格段に大きく、信用取引開始後の7ヶ月間に顧客の投資額が買建株式の費用として10回転していること、保有期間30日以内の取引が5割を超えていること、商品先物取引において手数料稼ぎの手段として用いられることのあるいわゆる特定売買の手法たる「直し」「途転」「日計り」「両建」等の手法が多数回にわたって行われていること、銘柄についても担当社員が主導的に推奨してきたと認められること、証券会社が得た手数料が損害の2割を占めることを指摘し、「このような頻繁かつ大量の取引となったのは、控訴人の利益獲得指向、本件取引開始時がITバブル期であったことなどもその1要因であるとは考えられるものの、その取引内容や数量等に照らし、控訴人において、その投資経験等を考慮しても、情報処理に基づく自主的かつ的確な投資判断ができる限界を超えているといわざるを得ず」との判示を行った。
 他方で、本判決は、このような取引状況の中、株取引の知識経験を有する顧客であっても信用取引のプロといえる担当社員とは比ぶべくもないのに、信用取引の保証金維持率が30%を割っても取引は何ら縮小されることなく、むしろ拡大しており、その拡大は担当社員の主導によるものであったとして、このような保証金維持率が30%を割った以降の担当社員の対応は、「明らかに顧客の損失を拡大させるおそれのあるものであり、指導助言義務に反する」とした。(なお、本判決は、保証金維持率が30%を割ると決済を除き新たな信用取引ができなくなること、20%を割ると追証が発生すること、理想的な維持率は60%程度であるとされていること、を認定している。)
 そして、本判決は、顧客の投資経験等を考慮すれば、本件取引は担当社員の勧誘・提案により行われていたものの、最終的には顧客が自己の判断で取引していたと見る余地もないわけではないとしつつ、顧客は信用取引については本件取引の約1ヶ月半前に他社で開始するまで経験がなかったこと、本件取引は銘柄選定を含めほとんどが担当社員主導の下に行われ、時には自ら指値注文をしたり売建や買建の注文を指示することがあったとしても、顧客が担当社員の提案や助言等によることなく、自らの意思と判断のみにより、積極的に売建や買建の注文、両建、損切り等の決済などをほとんど行ったことがないと推認されることなどを考慮すると、本件取引は、違法な一任売買とまではいえないにしても、担当社員らの主導により、事実上一任売買的に行われたとした。
 以上を前提に、本判決は、「信用取引については初心者と評価してよい控訴人について、○○(注・担当社員)の主導により、大量かつ頻繁になされ、その結果巨額の損失を招いた本件取引は、個別取引に形式的違法性がなくとも、実質的には、被控訴人の担当者が善良な管理者の注意義務に反し、むしろ意図的に委託手数料の獲得を目的としてなした行為であり、全体として違法な過当取引に該当するというべきである」とし、過当取引や指導助言義務違反による債務不履行ないし不法行為を認めた。(但し、顧客の経歴や職業、投資経験等が重視された上で、損害の発生及び拡大については顧客にも重大な落ち度があるとして、8割の過失相殺が行われた。)
 8割もの過失相殺が行われた点は問題であるが、投資経験も資金も豊富な顧客の取引について、投資経験の具体的内容に踏み込んで本件取引の比較を行い、本件取引自体についても詳細な検討を行って、顧客が自主的に判断できるような取引ではなかったことを判示して一審判決を覆している点は、実に正当である。また、本件では、証券会社から「信用取引保証金委託表」が提出され、一審判決も本判決も、これに基づいて各時点の保証金維持率の指摘を伴った事実認定を行っており、かような点が最終的には本判決の指導助言義務違反の判断に繋がったようである。そして、本判決が「保証金維持率30%」を指標に用いて肯定した指導助言義務違反は、オプション取引に関する最高裁平成17年7月14日判決(民集59巻6号1323頁)の補足意見における「指導助言義務」の信用取引被害における具体的な応用と言うべきものであり、このような保証金維持率への着目や指導助言義務の活用は、今後の信用取引被害の救済において大いに参考とされるべきものと思われる。