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解    説

■判  決: 名古屋地裁平成20年3月26日判決

●商  品: 株式等
●業  者: つばさ証券(判決時の商号・三菱UFJ証券)
●違法要素: 外務員の騙取・横領、過当取引、その他(違法な一任取引、内部規律違反)
●認容金額: 2985万6871円
●過失相殺: なし(外務員の騙取・横領)、4割(過当取引等)
●掲 載 誌: セレクト31・32頁
●審級関係: 控訴審で和解成立


 事案は、家計を預かっていた主婦が、会社員であった夫名義にて証券取引を行っていたところ、平成12年に勧誘によって信用取引が開始されてから過当な取引が行われ、担当社員によって金員の詐取や横領も行われていたというもので、担当社員は複数の顧客についての不正行為によって懲戒解雇され、刑事訴追もされて実刑判決を受けていた。
 判決は、まず、取引に関する損害については、適合性原則違反や説明義務違反は否定したが、違法な一任取引、内部規律違反、過当取引による不法行為(使用者責任)の成立を認めた。すなわち、まず判決は、一任取引というのみで私法上違法とは言えないものの、一任取引の規制の趣旨に照らし、手数料稼ぎ目的の過当取引が行われるなど、一任取引に内在している顧客を過当な取引に誘う危険が顕在化して顧客にとって好ましくない事態が生じたときは、違法と評価すべきであるとした上で、本件では担当社員が包括的な取引の承諾(一任)を得ていたことが自白されており、また、担当社員は、一任を取り付けた動機が専ら被告証券会社ないし自己の利益を図るためであったことや、一任を取り付けていることを奇貨として一任の趣旨に反するリスクの高い投資信託を背任的に購入していたこと、本件信用取引のうち多数を占める短期決済取引も手数料収入を上げるために担当社員が主導して行ったことを自認しているとして、本件取引における一任は、顧客の利益を犠牲にして証券会社の利益を図る危険が顕在化していると言えるから、私法上も違法と評価すべきであるとした。次に、判決は、担当社員が顧客に確認を行うことなく顧客カードの投資目的や年収欄につき虚偽記載を行ったり、顧客(夫)と面談ないし電話連絡をしたことがないのに、多数回にわたって面談ないし電話連絡をしたかのような記録を作成していたこと、被告証券会社のコンプライアンス指導部からアテンション指摘を受けて顧客と面談した部店長が、実際には顧客(夫)と面談していないのに、面談したかのような虚偽の報告書を作成して被告証券会社に提出していたことなどを指摘し、被告証券会社は、顧客との取引を適正に保つために自ら内部規律を規定しておきながら、故意にこれらの規律を懈怠しており、内部規律の重要性、その違反の程度に照らすと、これらの内部規律違反は善管注意義務違反として債務不履行を構成するのみならず、私法上も違法と評価すべきであるとした(判決の「まとめ」部分では、「顧客保護を直接の目的とした内部規律の故意による違反」とされている)。さらに、判決は、過当取引については従前の多くの裁判例と同様の3要件論を展開し、取引金額、取引回数、保有日数(短期決済の多さ)、手数料額、顧客の属性に加え、被告証券会社の内部基準に照らして本件取引が過大であるとしてアテンション指摘がなされたことが少なくとも2回あったことを併せ考慮して、過当性を認め、一任取引であったことからコントロール性を認め、前記のとおり担当社員は顧客の利益を犠牲にして被告証券会社ないし担当社員の利益を図っていたことから、悪意性の要件も認めて、過当取引の違法を肯定した。なお、損害論につき判決は、過当取引による損害は理論的には手数料に限定されるとしつつ、本件取引においては他の違法行為もあって手数料以上に損害が拡大したとして、以上の違法行為と顧客の損害との相当因果関係を認めている。
 また、判決は、担当社員による金員の詐取や横領を認め、被告証券会社からの、名刺の裏に手書きで金員の預かりを記載することは正規取引ではあり得ないことなので顧客には被告証券会社との正規取引でないことについて悪意ないし重過失があったとの主張を、このような態様で預けられた金員が実際に株式購入代金に充てられていたことがあったことや、担当社員が同様の手口で他の顧客からも金員を詐取していたことなどから排斥し、被告証券会社の使用者責任を認めている。
 なお、担当社員は顧客口座から金員を横領するだけではなく、他の顧客からの横領によって、穴埋めのための入金や株券の入庫も行っており、被告証券会社はこれらの穴埋め分について不当利得の主張を行っており、その主張上の金額は横領による損害額を大きく上回っていた。この点について判決は、信義則の観点や、担当社員は顧客から取引を一任されたことを奇貨として過当取引に及んだばかりでなく、顧客が被告証券会社から送付される報告書等を精査していないことに乗じて横領や穴埋めを行っており、そのため顧客はこのような入金・入庫の大部分及び出金の全部を了知していなかったという特段の事情があることから、顧客に利得があるか否かは一任の終了した時点の口座残高を基準とすべきであるとし、同時点の口座残高は0であったから、顧客に利得はなかったとして被告証券会社の不当利得の主張を排斥し、他方、横領についての顧客の損害も認めなかった(因みに、前記の過当取引等による損害は、顧客の現実の出捐額と現実に返還を受けた額の差額として算出されている)。
 過当取引のみならず違法な一任取引や内部規律違反が肯定されて、このことが損害論にも影響を与えている点や、担当社員が一任を奇貨として自在に入出金を行っていた場合の損害や利得の考え方など、示唆に富んだ判示がなされた判決であると言える。