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解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年12月25日判決

●商  品: 投資信託、仕組債(株価連動債・EB)
●業  者: 新光証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 3835万8979円、132万0009円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト31・109頁
●審級関係: 控訴


 本件の投資家は夫婦とその子であり、夫は以前から身体が不自由となり就労不能となっており、妻は看護婦として勤務していた(但し、原告らは不動産を保有しており家賃収入があった)。投資家は昭和61年頃から被告証券会社で取引を開始していたが、本件で問題とされたのは、平成9年以降の取引のうちの投資信託及びEBの取引であり、これらの取引について無断売買と事後承諾の押し付け、適合性原則違反、説明義務違反の主張が行われた。なお、被告証券会社との取引の窓口はもともとは夫であったが、夫は病気がちで本件取引中の平成11年1月以降も入退院を繰り返し、平成13年1月からは妻が被告証券会社との窓口になっていた。
 判決は、無断売買や適合性原則違反は否定し、説明義務違反についても、夫が入院する以前の取引に関しては、判断能力に問題が生じていなかったことや、入院以降のような過度の乗換売買は行われておらず、取引経験や財産状況に照らして相応の範囲の取引にとどまっていることなどを指摘して、違反はなかったとした。しかし、夫の入院以降の取引については、説明義務違反が認められた(過失相殺3割)。
 すなわち、判決は、投資信託について、かつてのRR分類や、R&Iが実施しているRC分類、被告証券会社が独自に行っていたRL分類などを指摘して、このようなリスク分類上の位置付けやこれに類する説明は、初心者あるいは初心者に近い一般投資家に対する取引勧誘時には必要不可欠であったとし、他方、本件取引対象の投資信託はいずれもRC4ないし5であったことを指摘した。また、投資信託の手数料が3%前後と高率であることや乗換勧誘時の説明義務に関するガイドラインの存在などを指摘して、乗換の勧誘時には、乗換による利害得失についての具体的事項(解約する投資信託の性格や、保有を継続した場合の見通し、解約した場合の損益等)の説明が必要であるとし、さらにナンピン買いを勧める場合は、リスク拡大につながることを十分に説明する必要があるとした。その上で判決は、入院後の夫は、程度は明らかでないものの判断能力が低下していたと推認できることを前提に、入退院の後には投資信託取引の頻度が極端に増加し、短期乗換売買も繰り返され、同一銘柄を買ったり売ったりしている点で一見していかにも無意味な取引ではないかと疑われるものもあることや、アプローチ履歴(担当社員が作成していた顧客との接触についての記録)の記載上も十分な説明がなされたとは容易には考えられないこと、前記のリスク分類に関する説明は行われていなかったことなどから、担当社員が、「判断能力が低下した○○(夫)に対し、そのことを認識しながら、あえて、その時々の被告の会社としての推奨銘柄である投資信託を、その方針どおりに、積極的かつ頻繁に勧める一方、リスク分類における位置づけなどの十分な説明をしなかったため、こうした頻繁な乗換え売買が行われる結果になったということが容易に推認される」「△△(担当社員)の主導の下、△△が勧めるままに頻繁な乗換え売買等を繰り返したと考える方が遥かに自然かつ合理的である」として、夫が入院した後の乗換売買や新規買付は説明義務違反の勧誘によるものであったと判示した。また、妻が被告証券会社との取引の窓口になった後についても、妻は取引に習熟していない初心者であったことなどから、説明義務違反が認められた。なお、取引に際しては、何度か確認書が徴求されていたが、それが説明義務違反の責任を払拭するものではないことは明らかであるとの判示も行われている。
 続いて、判決は、EBについて、商品構造等につき従前の投資家勝訴判決において示されていたところと同様の判示を行った上で、株式償還によるリスクの負担や途中売却できないこと以外に、「クーポンは、転換対象株式の株価の変動度合いの見込みや転換価格等に応じて設定されている結果、転換対象株式の株価が計算日において一定額を下回った場合にそのまま下落分の評価損を被るという株式償還リスクの対価であり、これと連動していること」についても説明が必要であり、顧客がそれを前提として理解した上で、クーポンの取得が実現される可能性自体についての相場判断や、そのような短期で高率のクーポンの取得を目指すEB取引と、中長期的な利益を目指す株取引をすることとのメリット・デメリットの比較が可能となっていなければならないと判示した。そして判決は、上記の連動性についての説明が行われていなかったことから説明義務違反を認めた(併せて、前記の投資信託の短期乗換売買の経緯からしてEB取引もこれらと同様に十分な説明がなされないまま勧誘されたことが推認できるとされ、上記の連動性の点のみならず他のEBの基本的な事項も十分説明されていなかった可能性があることも指摘されている)。なお、判決は、パンフレットにおける株式償還のイメージのグラフの存在や、確認書の作成は、説明義務違反を否定する理由にはならないとしている。
 適合性原則違反に関する判断をはじめ、投資家の主張を排斥した部分については問題が少なくないが、説明義務の具体的内容の判示は充実した内容となっており、参考になる判決である。