[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年11月16日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債・EB)
●業  者: エース証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 229万円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト31・317頁
●審級関係: 確定


 本件の投資家は、本件債券が勧誘された平成12年当時70歳の男性(元公務員)であり、投資経験は、平成7年以降に被告証券会社での外債や外国投資信託の購入があった程度で、平成9年に外債等の売却を行った以降は取引を行っていなかった。このような原告に対し、NTTデータEB及びソニーEBが相次いで勧誘され、購入に至った結果、下落した株式での償還が行われた(原告は、訴訟提起後にこれらの株式を売却しており、これにより損害が確定した)。原告は、無断取引、適合性原則違反、説明義務違反による不法行為ないし債務不履行を理由として、本件訴訟を提起した。
 判決は、無断取引の主張についてはこれを否定し、適合性原則違反についても、原告の資産状況、職歴、取引経験からこれを否定した。なお、判決は、原告が被告証券会社との取引開始時に、株は苦手でありあまりしたくないと告げていたことを認定しつつ、この点は説明義務違反の問題であると判示している。
 他方、判決は、EBに関する説明義務の内容として、発行体の信用リスク、対象株式の株価が下落すれば株式償還されること、途中売却できないこと、の3点を指摘した上で、とくに第2の点について、EBは一定の利率が保障された社債であるにもかかわらず元本が保障されておらず株式償還の可能性もある点で、「購入者に誤解を招きやすい商品であるといえるから、株式償還される可能性について、顧客の知識、経験及び取引意向に照らして具体的に理解することができるよう説明する義務がある」とした。その上で判決は、原告の投資経験や、これまで株式取引経験がなく、株は苦手であまりしたくないと告げていたことなどから、原告は投資意向としては比較的安全な商品を考えており、担当社員もある程度原告の投資意向を了解していたとし、このような原告にEBを勧誘するに際しては、「株価下落の可能性、株式償還の可能性及び株式償還により原告が被るリスクについて抽象的に説明するだけでは足りず、勧誘時点の対象株式の値動き状況、当該会社の状況、業績、償還日に取得する株式数、それによりどの程度の評価損を受ける可能性があるかについて、具体的な数字を挙げる等して説明し理解させる必要がある」と判示した。そして判決は、勧誘当時、株価がかなり激しく上下に動いている不安定な状態であったのに、担当社員は、株価に関する資料を示すこともなく、目論見書に基づく説明も行わず、単純に今後も上がるという楽観的な見通しを伝え、株式償還になっても上がるまで待てばよいなどと説明し、株式償還リスクについてはパンフレットに記載されていることのみを説明したと認定して、このような説明は原告に対する説明としては不十分かつ不適切であり、説明義務に違反しているとした(過失相殺5割)。
 株を嫌っていた投資意向や株式取引経験の欠如は適合性原則違反を基礎付ける重大な要素であるのに、これらを考慮せずに適合性原則違反を否定した点や、説明義務の内容を狭く解している点などは問題であるが、誤解を招きやすい前提状況と原告の意向や経験等から、具体的なリスクの程度を理解させる必要性が肯定されている点は、近時の説明義務の法理の流れに沿うものとして正当であると言える。