[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年11月16日判決

●商  品: オプション(日経平均株価指数オプション取引)
●業  者: 泉証券(現・SMBCフレンド証券)
●違法要素: 説明義務違反、過当取引
●認容金額: 1529万0991円
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: セレクト30・351頁
●審級関係: 控訴審にて和解成立


 本件の投資家は、昭和44年生まれの大卒の会社員(男性)であり、もともと証券取引経験はなかったが、預金の金利が低いため株式で配当を得ようと考えて、平成13年に被告証券会社で大手上場企業の株式を購入した。その後、担当社員の勧誘による取引が始まり、平成14年1月には新興市場株が相次いで勧誘されたが、最初の銘柄は直ちに利益が出たものの、2回目の銘柄は購入直後から価格が下落を続けた。そのため、損を取り戻すためとして信用取引が勧誘され、上場株やETF(上場投資信託)の信用取引が行われたが、損は回復せず、その後、損を取り戻すための手段として、オプション取引の勧誘が行われた。そして、平成15年7月以後、頻繁なオプション取引が行われてさらに大きな損失が発生し、投資家は、新興市場株、ETF、オプション取引の損失について、損害賠償請求を行った(金額面からも内容面からも、争いの中心となったのはオプション取引であった)。
 判決は、新興市場株とETFについては勧誘行為の違法性を認めず、オプション取引についても、投資家の信用取引経験や、利益を上げてそれまでの損を取り戻そうという意向を有していたことなどを理由に、適合性原則違反を否定した。
 しかし、判決は、オプション取引の説明義務に関しては、一般的な説明はあったが、取引開始時において投資家はその仕組み等を十分に理解できておらず、担当社員もこのような理解の状況を認識していたとし、「オプション取引の複雑さやそのリスクの高さに照らせば、○○(注・担当社員)は、上記のような認識を持ったならば、原告に対して、改めてオプション取引の内容等の説明を行うべき注意義務を負っていたというべきであり、更なる説明をしないまま、本件オプション取引を勧誘した○○の行為は説明義務に反して違法」と判示した。また、判決は、本件オプション取引は担当社員が主導して行っていたとした上で、取引開始の翌日からイン・ザ・マネーの状態での売り建てが行われ、その後も一度に数百万円のプレミアムが得られるようなイン・ザ・マネーの売り建てが繰り返されており、ある時期からは、50枚の買い建ての日計りの取引が26回も繰り返されたことを指摘し、本件オプション取引によって証券会社が得た手数料収入も指摘して、本件オプション取引が、原告の財産状況やオプション取引についての理解に照らして、原告にとって過大な取引であったことは明らかであり、担当社員は原告の理解が十分でないことを認識しながらこのような取引を主導したものであるから、過当な取引を勧誘したものとして違法であったと判示した。
 なお、本件の被告証券会社は、平成16年3月にオプション取引に関して行政処分を受けているところ、判決も、経営陣主導の下にオプション取引の勧誘を積極的に行っていたとした上でその管理体制の問題を指摘し、さらには、「複数の営業員が、オプション取引の基本的な仕組みを理解していない複数の顧客に対して、オプション取引の仕組みやリスクを十分に説明して理解させないまま、営業員主導の態様で、顧客の財産に比して大きな数量の建玉のオプションの売り取引を短期間に繰り返して行うなどの取引を勧誘していた「△△支店においても、同様に、オプション取引の勧誘を積極的に行うことになり、○○に対しても、上司から、オプション取引の口座につき、1人何件開設という目標が伝えられ、毎日のように、その開設状況につき追及されるなどした」として、ノルマ営業の実態をあからさまに指摘している。そして判決は、過失相殺に関しては、投資家にも相当の落ち度があったとしつつ、担当社員が投資家が十分に理解していないことを認識しながら過当な取引を勧誘したことや、このような勧誘の背景としての被告証券会社自身の問題や被告証券会社が得た手数料収入から、投資家の過失を過大視できないとして、過失相殺を2割とした。
 また、本件の特殊事情として、オプション取引開始時に投資家からの要請で損失補填の合意がなされていたかが争点になったが(判決の認定によればオプション取引の損失の半分近くに相当する金額が取引継続中に担当社員によって投資家の取引口座に入金されていた)、判決は、諸事情を詳細に検討して、担当社員には厳しいノルマとの関係で証拠金を立て替える動機があり、現に他の顧客についても立替を行っていた事実があることなどから、損失補填の合意があったとは言えないと判示した。
 オプション取引以外の商品について違法勧誘を否定した点や、オプション取引につき過当取引を認めながら適合性原則違反を否定した点は問題であるが、証券会社のノルマ営業の実態が明示されて過失相殺の判示内容にも取り入れられている点においては、貴重な判決であると言える。