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解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年7月30日判決

●商  品: 株式、投資信託
●業  者: 岡三証券
●違法要素: その他(適合性に反する一任取引)説明義務違反
●認容金額: 1310万5070円
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト30・57頁
●審級関係: 控訴審で和解成立


 本件の投資家は、昭和18年生まれの女性で、長年、事務職員として企業に勤務していたが平成15年に退職して無職となっていた。投資家にはもともと投資経験がなかったが、被告証券会社等で証券取引を行っていた夫が平成4年に死亡したため証券会社に預託されていた株式を相続することとなり、これを契機に証券取引を開始するに至った。本件訴訟では、このようにして平成4年に開始されて平成15年まで続いた取引のうち、担当者交替後の平成8年以降の多数の株式や投資信託の取引全体が、適合性原則違反、説明義務違反、一任売買、過当取引によって違法となるとの主張が行われていた。
 判決は、まず、本件取引のうち国内株式取引については、担当社員は大きな利益を上げることができる株式に投資することを勧誘し、株価変動が大きく信用取引規制がされていた銘柄の取引を多く行っていたとして、比較的リスクが高く、それだけ高い適合性が要求される取引であったとし、外国株式取引については、為替リスクを考慮に入れる必要があるなど仕組みが複雑で、価格変動の要因等の情報収集も困難であるから、国内株式と比較して高い適合性が要求されるとした。また、投資信託については、専門家が分散投資を行うことから一般的には株式取引等と比較して高い適合性が要求される取引ではないとしつつ、本件取引における投資信託は、その多くが株式投資信託であり、R&Iのリスク度分類によっても価格変動が大きいか極めて大きいとされる商品が大部分であったから、投資信託の中では比較的リスクの高いもので、それだけ高い適合性が要求される取引であったとした。
 そして判決は、適合性原則違反については、上記のような取引の性質と、投資家が本件取引当時、証券取引についての十分な知識、理解力や相場観を備えていなかったことから、本件取引は投資家にとって過大な危険を伴う取引であったとしたが、他方、投資家には前任担当者の時期に一定の取引経験を積んで損失も経験していたこと、投機目的で取引を行う意向を有していたこと(本件取引に並行して他社でも株式取引等が行われていた)などから、適合性原則違反を否定した。
 次に、判決は、本件取引のような短期売買を自らの判断で繰り返し行うには証券取引に習熟していることを要するところ、投資家は十分な知識、理解力や相場観を有していなかったのであるから、投資家が自ら主導して本件取引を行っていたと考えることは困難であり、本件取引は、担当社員が主導し、実質的には投資家から担当社員に一任された状態で行われていたと判示した(なお、証券会社側からは、投資家が確認書等の必要書類に異議を述べずに署名押印していたことや、取引に苦情を述べていなかったこと、同時期の他社取引の存在などが反論として主張されていたが、判決はこれらを個別に検討して排斥している)。その上で、判決は、「証券会社の担当者に取引が一任された場合、担当者が合理性の少ない取引を繰り返して行い顧客に過大なリスクを負わせることや、顧客の利益を犠牲にして証券会社の利益を図るおそれがあることは否定できない。したがって、証券会社の担当者が顧客から一任された状態で行った取引が、顧客の適合性に著しく反する取引であって、社会的相当性を欠くと認められる場合には、当該取引に係る担当者の行為は不法行為上の違法性を有するものと解するのが相当である」とし、本件取引は前記のとおり投資家にとって過大な危険を伴う取引であった上に、短期売買が繰り返されていることや取引量も少なくないことから高い適合性が求められたとして、「本件取引は、原告の理解力、判断能力を著しく超えた内容の、過大な危険を伴う取引」であったと判示して「違法な一任売買」に該当するとした。
 また、判決は、本件取引は実質的に一任売買であったが個別の承諾はあったことから説明義務も問題となるとし、国内株式取引については、担当社員は、価格変動の幅やそれに伴うリスク、あるいは株式の買換えに伴い発生するリスクについて十分な説明を行っていなかったとして、説明義務違反を認めた投資信託についても、リスクの程度の説明や、買換えに伴う説明(手数料等の費用や売却するものと購入するものの内容、リスクがどのように異なるか)が必要であるのに、担当社員は受益証券説明書を交付して口頭で簡単な説明を行うにとどまっており、この程度では投資家は十分に理解することができなかったとして、説明義務違反を認めた。さらに、外国株式についても、当該株式のリスクの程度及び主な価格変動の要因の説明が必要であるところ、外国証券内容説明書の事前交付も価格動向の具体的な説明もなかったとして、説明義務違反が認められた(なお、証券会社側は、上記説明書の郵送を主張していたが、判決は、資料を交付されていても投資家が独力でそれを読んで理解することは困難で、口頭の説明がない以上、説明義務を尽くしたとは言えないとしている)。
 以上の他、判決は、投資家の過当取引の主張に対しては、そのことのみから本件取引を違法とは言えないが、投資家の理解力に照らして大量、頻繁な取引が行われていることから、本件勧誘行為は、取引量や取引回数の点にも、一任売買あるいは説明義務違反により違法であると言えると判示している。
 さらに、証券会社側の消滅時効の抗弁について、判決は、本件取引の勧誘行為は一連のものとしてその全体が一個の不法行為となり、本件取引全体が終了した時点が起算点となるとして、上記抗弁を排斥した(なお、本件取引には取引が中断された時期があったが、判決は、損失が生じて中断した後にその損失を取り戻すための勧誘によって取引が再開されていることから、中断した期間の前後を通じて一連と見ることができるとしている)。
 取引の実情を正しく見据えての実質的一任売買の認定や違法性の肯定(実際上、一任売買をも判断要素に取り入れた上で適合性原則違反が肯定されたと見ることもできる)、形式的な取引経験や他社取引を偏重することなく「リスクの程度の理解」を中核として株式や投資信託について説明義務違反が肯定された点など、大いに意義がある判決である。