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解    説

■判  決: 東京高裁平成19年5月30日判決

●商  品:  株式、投資信託、株価連動債
●業  者:  野村証券
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 5750万2176円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌:  金商1287・37頁、セレクト29・54頁
●審級関係: 東京地裁平成18年6月7日判決の控訴審、確定

 判決によれば、本事案の投資家は、昭和25年生れの独身女性で、大学卒業後に企業で約20年勤務して管理職も務めた経験があったが、本件取引当時は語学学校の非常勤教師をしていた。また、投資家は、平成5年に証券取引を開始しており、平成10年5月からはAが担当となって、様々な投資情報を投資家に送るようになり、勧誘によって投資信託を中心とした取引が行われ、平成11年5月からは株取引も行われ、外国証券の取引も行われていた(但し、投資家はAに対し、安全に運用したいとの方針を伝えていた)。平成11年6月からはBが担当となって、株式や投資信託の他、日経平均ノックイン債やEBをも含む多数の取引が行われるようになり、とくに同年8月に買い付けられた光通信株は平成12年1月に売却されて多額の利益となり、ほぼ同時期に他の投資信託も利益を出して売却され、投資家は大いに喜んでいた。そして、同年2月以降は、Bは時折電話で説明をし、パンフレットを郵送して取引内容を連絡するのみで、個別の取引毎に説明して承諾を得ることはなくなったが、Bを信頼していた投資家は、特段の異議を述べずにこれを容認し、個別の取引についてほぼBに一任するようになった。以後、Bは、新興市場銘柄やIT銘柄、リスクが高い株式投資信託等を取引し、日計りや翌日計り等、短期売買も行うようになり、結局は多額の損失が生じた。なお、投資家は父親の介護を行っていたところ、この父親は平成11年12月には自殺を図ったこともあり、以後、投資家は看病疲れで体調を崩すなどしていた。また、判決は、Bが平成11年8月に、改めて投資家に確認することもせずに投資家の顧客カードを無断で変更し、投資方針が変わったかのような外形を作出していたことをも指摘している。
 このような事案において、一審判決は、EB取引についてのみ説明義務違反を認め、過当取引の主張については年間平均回転率が多い年でも3.64で他の年は2以下であったことなどからこれを否定し、適合性原則違反についても、当初は投資家は比較的安全でバランスの良い運用を望んでいたことを認定しながら、投資家の表面的な経歴や取引経験を偏重してこれを否定し、EB取引以外の投資家の請求を棄却した。これに対して本判決は、Aが担当した取引は投資家の投資方針をよく理解して行われたものであったとして違法ではないとしたが、Bが担当した平成12年2月以降の取引については、光通信株売却によって多額の利益を上げた後も、投資家の投資方針は「従前よりも収益性の高い商品を対象とすることを許容しつつも、収益性と安全性を対比するならば、なお安全性を重視するという限度にとどまっていた」と認定した上で、Bが行った取引はかような投資方針に明らかに反しているとし、以下のように判示して全体として適合性原則違反に該当するとした。
 「この事実に照らすと、Bは、取引の原資を安全でバランスよく運用したいというのが原告の当初の投資方針であることを十分承知していながら、比較的早い段階から、原告の資産をリスクの高い商品に投入させようとし、事実、これを実行してきたものと認めることができる。以上によれば、Bは、原告の資産をリスクの高い商品に投入させる意図で、複雑な仕組債等を対象に原告名義の取引を行って既成事実を積み重ね、原告が、Bの投資判断を一層信頼する一方で、○○(注・投資家の父親)の介護のため個別の投資の是非を検討する余裕はない状況にあることに乗じて、個別の取引を一任させる心理状態に原告を誘導し、事実上原告の口座を支配して自在に取引するに至ったものということができ、このような手段及び取引内容を有する事実上の一任取引は、顧客の証券取引に関する能力、投資姿勢、財産状態を無視し、顧客の信頼を濫用し顧客のリスクにおいて自分自身の成績を上げようとし又は被告の利益を図る行為として、適合性の原則に違反し、社会通念上許容された限度を超える一任取引を行ったものとして、不法行為を構成するものというべきである。」
 最高裁平成17年7月14日判決(民集59巻6号1323頁)以降、投資家の意向と実情を丁寧に分析検討して適合性原則違反を肯定する判決が増えているが、本判決は東京高裁における逆転判決であり、一審判決の投資家の意向を軽視した偏向した判断が改められた点を含め、その意義は大きいものと思われる。