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解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年4月27日判決

●商  品: 株式
●業  者: 新光証券(旧商号・新日本証券)
●違法要素: 過当取引、外務員の騙取・横領
●認容金額: 3144万7402円
●過失相殺: 5割(過当取引分)、2割(横領分)
●掲 載 誌: セレクト29・163頁
●審級関係: 確定


 事案は、家具輸入販売業を営む投資家(男性・昭和59年から被告証券会社で取引を行っていた)の平成12年以降の取引について、Aが担当者であった時期に無断売買が行われ、投資家が抗議したところ、後任担当者Bと次長であったCが投資家に対して損失回復を約束し(利益保証約束)、以後、一任取引による過当取引が展開され、さらにはBが投資家からキャッシュカードを預かって預金からの横領を行っていたとして、証券会社及びA、B、Cに対して損害賠償請求を行ったというものであった。(横領の事実自体は争いがなく、Bは懲戒解雇されていた。)
 判決は、無断売買と利益保証についてはこれを否定し、横領については、Bの責任とともに証券会社の使用者責任を肯定した(但し過失相殺2割)。
 過当取引については、判決は、まず、「証券取引において、多額あるいは頻繁な売買を行えば、相場の変動及び手数料等の取引コストがかさむことにより、投資家が損失を被る危険は増大する。そして、十分な知識・経験・能力を有しない一般投資家は、情報の収集・分析・判断能力に劣るため、外務員の推奨を信用し、これに従う傾向にある。他方、証券会社は一般投資家に対して投資勧誘を行い利益を得ているのであるから、外務員の推奨等に対する投資家の信頼は保護に値する。特に、顧客が取引を行うほど証券会社の手数料収入が増大することになる以上、外務員は顧客に対し、多額・頻繁な取引を行わせる危険がある。よって、証券会社が一般投資家を顧客として証券取引を勧誘する際、当該顧客の知識・経験・投資目的・資金力等に照らして不適切に多量・頻繁な売買を勧誘する行為は、顧客の利益を顧みないという意味で、証券会社に認められる高度の専門家責任に反し、顧客に対する不法行為と判断される場合もある」として、過当取引に関する従前の多くの裁判例と同様、過当性、口座支配性、悪意性(「証券会社が顧客の信頼を濫用し、あるいは顧客の利益を顧みなかったこと」と定義付けられている)の三要件が違法な過当取引か否かの判断要素となると判示した。
 そして判決は、まず過当性について、従前の取引に比して短期売買が多く(3ヶ月以内の売却が8割を超える)、頻繁に乗換売買がされていること、資金回転率が比較的高く(5.21回)投資資金の総体が2ヶ月に1回弱回転することとなることのほか、外国株の取引も比較的多くなされていることなどを考慮すると、長年の投資経験を有するとはいっても一般的な個人投資家に過ぎない原告にとって、Bが行った取引は過当性の要件を充足するとした。(なお、判決は取引コストについては、手数料は約370万円、これを含めた取引コスト全体は約800万円で、取引額の累計が数億円に上っていることに照らすと、過当性判断の一要素になりうるにしても決定的な要素とはならないと判示している。但し、本件では外国株取引によって証券会社が得た利鞘が明らかではなく、このことがかような判示に繋がったと思われる。)
 さらに判決は、Bが取引による損失について虚偽報告をして事実上の一任売買を行っていたと認定し、口座支配性、悪意性の要件も充足されているとして、Bが担当した取引は違法な過当取引であったとした。
 但し、投資家の社会経験や長年の取引経験、さらには無断売買が行われたとして抗議して担当者を変えさせていたことが指摘されて、証券会社から送付される報告書のチェックもせずに取引を任せきっていたことには過失があるとして、5割の過失相殺が行われた。