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解    説

■判  決: 大阪地裁平成18年4月26日判決

●商  品: 投資信託、株価連動債(EB、バスケット債)、外国株、外債
●業  者: 岡三証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反、過当取引、無意味な反復売買
●認容金額: 1415万5226円
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: 判例時報1947・122頁、判例タイムズ1220・217頁、セレクト27・184頁
●審級関係: 控訴審にて原審認容額(元本)にて和解成立


 事案は、本件取引開始当時66歳の主婦であり証券取引経験がなかった原告が、夫の遺産たる株式を売却して株式投資信託を買い付け、以後、投資信託の乗換売買を中心に、株価連動債(EB・バスケット債)、国内上場株、外国株、外債といった取引が約2年半にわたって展開され、損失が生じたというもので、原告は、これらの取引による損失から国内上場株による損失を控除した金額につき損害賠償請求を行った。
 判決は、主に長男が原告の代理人として取引を行っていたとした上で、原告には投資に関する知識経験はもちろん十分な経済知識や英語の知識もなかったことを認め、飲食店を経営していた長男についても、大病で開頭手術を受けた後遺症でうつ病の症状が強く入通院や投薬を受けており、判断能力が低下していたことを認めた。そして判決は、証券会社担当社員が証言した説明内容や乗換売買の経緯についての主張や証言を子細に検討して、上記の原告らの属性や実際の取引内容と比較し、担当社員の証言は不自然、不合理で信用できないとして、取引全体につき、原告らが十分理解できないままに担当社員の主導によって行われたと認定した。
 その上で判決は、最高裁平成17年7月14日判決を引用して適合性原則を論じ、本件に関しては、「単に株式投資信託等という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく、当該投資信託等の投資方針・投資対象が何かなどの商品特性を、また、リスクの高い商品の場合には、その商品への投資金額、取引資金全体における割合等を、さらに、乗換売買の場合には、その規模・回数、目的・意向(元本重視の取引なのか、値上がり益を見越した積極的な取引なのか)といった内容等を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の顧客の側の諸要素を総合的に考慮する必要がある」とした。そして判決は、取引開始後3カ月で外国株や店頭株をも投資対象とするRR分類4のハイリスク型投資信託への集中投資が行われたこと自体が適合性原則違反の疑いが強いものであったとし、以後、21種類の株式投資信託やEB、バスケット債、IT関連外国株といった複雑な仕組の金融商品に全取引資産を集中投資する状態が続き、短期乗換売買が繰り返されていること(平均回転率3.17回)などを指摘し、適合性原則違反を肯定した。
 次に、判決は、説明義務につき「勧誘する取引について自らの証券取引の知識、経験、財産状態、投資意向等に適しているか否かを自ら判断できる機会を与えるべく、原告らに対し、新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針(元本重視の取引か、利子・配当重視の取引か、値上がり益重視の取引か等)、リスクの質と程度はもちろんのこと、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、原告らの属性等を踏まえ、原告らの取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務があった」とした上で、説明書、目論見書等は難解な内容であり、確認書の徴求も十分な説明を示すものではなく、ひととおりの説明があったとしても説明義務が尽くされたとは認めがたいとして、原告が請求対象とした各商品について説明義務違反を認めた。
 さらに判決は、証券会社が一般投資家に勧誘を行う際には、「当該顧客の知識・経験、投資目的、資金力に照らして、不適切に多量・頻繁な投資活動に勧誘し、自己の利益を図ってはならないという義務を負っている」とした上で、平均回転率が3.17回であること、前記の集中投資や短期乗換売買の問題から取引の過当性を認め、担当社員の主導性も肯定し、さらに手数料が高率の商品の短期乗換売買や合理性のない乗換売買が繰り返されていることから、本件取引は原告の利益を犠牲にして自己の利益を図ったものと推認せざるを得ないとして、「無意味な反復売買、乗換売買」として違法であるとした(実質的には過当取引を肯定したと言える)。なお、過失相殺は2割であった。
 取引の経緯に関する言い分が真っ向から対立する中での、原告らの属性及び客観的取引内容から見た自然さや合理性を重視した事実認定手法、適合性原則、説明義務、乗換売買(過当取引)に関する判断のいずれをとっても、実に正当な判決であると言える。とりわけ今後も一般投資家への勧誘対象の主力となるであろう株式投資信託の乗換売買を中心とした被害に関する判決として、重要な意義を有するものと思われる。