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解    説

■判  決: 大阪地裁平成18年3月27日判決

●商  品: 株式、投資信託
●業  者: 東京証券(現在の商号・東海東京証券)
●違法要素: その他(一任取引)
●認容金額: 1281万5225円
●過失相殺: 85%
●掲 載 誌: セレクト27・18頁
●審級関係: 双方控訴


 本件の原告は主婦であるが、昭和61年に夫が死亡した後、複数の証券会社と取引を行っていた。このうちA証券会社では信用取引が行われていたが、一任取引によって多額の損失が生じ、本件の被告証券会社の当時の担当者の助言や協力もあって、原告はA証券会社に損害賠償請求訴訟を提起していた(その後、和解が成立した)。
 他方で、原告は上記の経緯から被告証券会社の当時の担当者に強い信頼を抱いて被告証券会社との取引を行っていたが、平成9年2月に担当者が交替した。そして、新たな担当者の下で、平成10年9月以降、3つの名義の口座で一任取引が開始され、さらに平成11年12月には原告が他社に預託していた株式につき税制変更への対応のための売却と買戻しの勧誘がなされた上で、その売却代金をもって(買戻しは先送りにして)さらなる一任取引が展開された。このような新たな担当者の下での一任取引による多額の損失につき、本件の損害賠償請求訴訟が提起された。なお、問題の取引期間中の3つの口座の年次資金回転率は、27.31回、31.33回、44.38回に達し、多数の店頭株の取引や、いわゆるブルベア投信の頻繁な取引(両建・途転・買い直しを含む)も行われていた。また、少なくとも平成10年11月頃から一任取引が行われていたこと自体は、争いがなかった。
 判決は、原告は一定の投資経験を積んでおり、ある程度の株式取引についての能力も備えるに至っていた、投機的な銘柄を含めた本格的な株式投資を志向していた、資産も潤沢に有していたと認定し、一任売買についても、A証券会社での損失発生により一任売買の下での頻回な取引が多額の損失発生に結び付き得ることを理解していた、本件の一任売買についてもその頻回さや損失の発生を認識していたと認定した。しかし、判決は、本件一任売買は、原告がその詳細を適時にかつ正確に把握していたならば、決してこれを許容しなかったであろうほど頻回かつ多数に上っていたことには疑いがないとし、また、平成11年12月以降の取引については、原告が他社に預託していた株式を被告証券会社で売却したのは税制変更に伴う高額の課税回避のためであって当該株式の買戻しを前提とした行動であったのであるから、その売却代金を無制限に本件一任売買に投入することが原告の意思に沿うものとは考えられないなどとして、かかる取引は原告の意図に反するものであったとした。そして判決は、平成10年9月以降の取引は、本件一任売買を含め、「全体として、社会的に相当性を欠く手段又は方法によって投資を勧誘することを回避し、一任の趣旨に反するような取引を回避すべき注意義務に反する」として、不法行為の成立を認めた。(なお、原告は、適合性原則違反や過当取引を主張していたのであるが、これらの点については明確な判示はなされていない。)