[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成18年3月24日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債・EB)
●業  者: 国際証券(現・三菱UFJ証券)
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 2741万2683円(当初の3名の原告分の合計)
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト27・303頁
●審級関係: 控訴審にて和解成立

 兄弟3名が行った6銘柄のEBの取引による損害につき、適合性原則違反が肯定された判決である(なお、原告のうち1名が提訴後に死亡して相続人が訴訟を承継したため、判決時の原告は6名となっている)。
 判決は、まず、適合性原則について「明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを投資者に行わせたときは、不法行為上違法となる場合がある」と判示した。そしてEBのリスクの高さや、株式への投資と異なって途中売却できないこと、発行者の信用リスクも伴うことなどを指摘した上で、一般投資家がEBの取引を自己の責任と判断で行うためには、@計算日においてEBの額面金額と転換対象株式の株価との差額相当の、時として多額の損失を被るリスクがあることを理解するとともに、AEBを途中で売却できないため、かかる損失を未然に軽減ないし回避できないことを理解しておき、「その理解に基づき、自ら株価の把握や予測をすることができるような株式投資経験や、これに比類する知識等を有していることが必要であるということができる」と判示した。さらに判決は、株式投資に適合性が否定されない投資家であればEBについても適合性は否定されないとの証券会社の主張に対し、「EBへの投資は、株式投資に比べて複雑な考慮を要することは一見して明らかであり」とした上で、「転換対象株式を転換価格で取得し、中長期的に保有することが、投資判断として合理性を持つとの判断ができるだけの、株式投資の経験、知識を有することが、EBについて投資勧誘をするための適合性であるということができる」とした。
 そして判決は、原告ら3名のうち2名は株式投資経験がなく、残る1名も50万円弱の株式購入があっただけで、しかもこの株式は原告らが所有建物を賃貸している先の企業の株式であり、当該企業の事情等が分かると思って買い付けてそのまま保有を続けているもので、これを株式投資経験と評価することはできず、他に株式投資経験に比類する知識があったと認めるに足る証拠はないとし、また、原告らの外債や社債の取引経験等から、原告らの投資方針は安定した運用を主眼としたものであったとし、さらに、各EB買付時の経緯から、原告らが株価の推移や計算日時点の株価予測をした上での投資判断をしていなかったことが窺われるとして、「時として多額の損失を被るリスクがあり、当該株価の適切な把握と予測が必要な本件各EBが、原告らに適合性のある商品であったとはおよそ言い難い」と判示して、適合性原則違反を認めた。
 なお、判決は、過失相殺の理由として、EBへの投資の話を最初にもちかけたのは原告側であったこと、担当社員の勧誘態度が執拗であったとか誤解を与えるようなものであったような事情は窺えないこと、担当社員は一定の説明を行っておりリーフレットや目論見書を交付していたこと、株式で償還された後、原告らが株式を売却するまで約3年間が経過していて売却の当否と時期等は原告ら自身が判断していること、等を指摘したが、過失相殺は割合3割にとどめた。(損害論については、EB購入額と、償還された株式を売却した代金との差額から、各EBの取引で得られた利息を控除した額が損害として認定されている。)
 株式投資とは異なるEBにおける投資判断の困難さを的確に判示して適合性原則の問題に反映させている点は実に正当であり、従前のEBの判決にやや欠けていた正しい視点を補うものとして、重要な判決であると言うことができる。