[検索フォーム]
解 説 |
---|
■判 決: 大阪高裁平成17年12月21日判決
●商 品: オプション(日経平均株価指数オプション取引)
●業 者: 岡三証券
●違法要素: 説明義務違反、指導助言義務違反
●認容金額: 361万7550円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト27・370頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴(原審・京都地裁平成16年5月26日判決)・確定
事案は、マンションを所有し、その賃料収入で生計を営んでいた投資家が、勧誘によって、リスクの高いロールオーバーの手法を含むオプションの売建の取引を繰り返し、約1240万円の損失を被ったというものであった。なお、この投資家は、長期にわたる株式現物取引の経験を有していた。一審判決は、投資家の株取引経験から適合性原則違反を否定し、オプション取引のごく基本的な事柄の説明と理解のみをもって説明義務違反をも否定し、ロールオーバーの手法の説明にも違法性はないなどとして、投資家の請求を棄却した。
これに対して本判決は、適合性原則違反及び説明義務違反(ロールオーバーに関する点を除く)については、これを否定したものの、ロールオーバーの手法については、以下のように判示して、ロールオーバーに関する説明義務、指導助言義務を肯定し、本件ではかような説明や指導助言がなかったとして、不法行為の成立を認めた。
「ロールオーバーの取引手法は、高いプレミアムの売り取引を繰り返すことにより、一時的に得たプレミアム収入により発生した損失を計算上帳消しにしようとするもので、損失が発生した場合に、その損失をカバーするため、損失額以上のプレミアムを得るためにオプションの売りを行って株価の成り行きを見る手法であるが、プレミアムが高いということは権利行使される可能性が高いということであり、そのような売り取引は損失の発生の高い可能性をリスクとして同時に抱え、損失を拡大させる危険性の高い取引手法であり、投資の専門家である生命保険会社や信託銀行等の機関投資家は採用しない手法であるといわれているものである。このようなロールオーバーの取引手法の危険性を考慮すると、証券会社及びその従業員としては、ロールオーバーの取引を勧める場合には、その危険性を十分説明し、顧客がそれをよく理解した上でその取引を行うよう指導、助言すべき注意義務があるというべきである。」
なお、本件においては、途中で担当者との間でトラブルが生じたため、証券会社の副支店長が担当となっており、本判決は、かかる副支店長は、積極的にロールオーバーの取引を勧めることはせず、手仕舞いするかロールオーバーするかは投資家の責任で決めることであると述べて対応していたと認定している。それでも本判決は、旧担当者からロールオーバーの危険性について説明を受けず、その危険性についてよく理解しないままロールオーバーの取引をした投資家に対し、ロールオーバーの危険性についての説明や注意を喚起する対応をしなかったことが認められるとして、副支店長についても説明義務違反及び指導助言義務違反があったとした。
但し、本判決は、投資家は当初の担当者に関する苦情を申し出た際に副支店長から手仕舞いを勧められ(この時点で手仕舞いを行っていれば通算損益は若干の利益で終わることができていた)、その後も日経平均株価が損益分岐点を上回る状況となったことの連絡を受けて決済の機会を与えられたのに、さらなる上昇を期待して決済を行わなかったという事情が認められるとして、8割の過失相殺を行った。
適合性原則違反及び説明義務違反(ロールオーバーに関する点を除く)を否定した点や、高率の過失相殺には大いに疑問が残るが、ロールオーバーという取引手法の具体的な危険性を正面から肯定して高度の配慮義務を肯定した点は、実に正当である。また、オプション取引に関する最高裁平成17年7月14日判決の補足意見で述べられた指導助言義務を早速採用している点においても、注目すべき判決であると言える。