[検索フォーム]
解    説

■判  決: 名古屋地裁平成17年5月26日判決

●商  品: 株式(信用取引)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 過当取引、その他(一任の趣旨に違背)
●認容金額: 4095万8490円
●過失相殺: 3分の2
●掲 載 誌: セレクト26・1頁
●審級関係: 双方控訴


 事案は、自営業者である原告が、平成9年から同12年にかけて行われた信用取引につき、適合性原則違反や過当取引等を理由に損害賠償請求を行ったというものであった。
 判決は、適合性の問題については、原告は200万円の現金保証金によって取れるリスクの範囲で信用取引を任意に始めたと認定した上で、信用取引開始時点における原告の証券取引経験や資力から適合性原則違反を否定し、さらに、売買回転率(原告の主張では17.1回)をはじめとする数値分析に基づいた過当取引の主張についても、数字のみから過当性の推認をすることは不相当であるとして、これを採用しないと判示した。
 しかし、判決は、いかに信用取引の適合性を有する顧客であっても、信用取引は差し入れた金員以上の経済的負担を被る危険性がある以上、保証金は余裕資金の一部にとどめる必要があり、保証金の額はリスク管理の上で極めて重要な指標となるところ、担当社員は、原告が現金保証金200万円の範囲でのみ信用取引のリスクを取る意思のあることを明確に認識していたにもかかわらず、さして原告に説明した形跡もないまま、MRFからの振り替えで信用保証金を増額させており、これは原告の認識している以上のリスク負担を負わせるものとして、違法な取引態様というべきである、と判示した。なお、担当社員が、建玉の増加について原告の同意があったから、信用保証金の増加も当然分かったはずであると述べたことに対しては、判決は、証券会社従業員には、まさに顧客がその点を理解していることを確認することこそが求められるとし、本件では、建玉増加の要望と保証金額の維持といういわば矛盾した要望について、どちらを優先させる意思であるかをはっきりと問うべきであったと判示した。また、原告が信用保証金残高の回答書に署名捺印して返送していた点についても、判決は、これらは免罪符とはならず、せいぜい過失相殺の一考慮要素にとどまるとした。
 また、判決は、担当社員は、平成11年暮れ近くから包括的一任的な注文を受けて執行するようになったあげく、平成12年春以降は、相当程度独自の判断で取引を行っていたとして、実質的一任売買を肯定した。
 その上で、判決は、原告の主張は実質的一任売買と一部の取引の過当性を言う点において理由があるとし、これは「200万円の現金保証金で担保できる範囲内で信用株式の建玉をする」旨の一任の趣旨に違背した取引であると言い方もできるとして、不法行為を肯定した。そして判決は、200万円以上の現金保証金が必要となる建玉のされた時期以降の取引は、それ以前に建てられたものも含め、過当な信用保証金による担保の下に取引された違法なものと評価されるとして損害を算定し、原告が保有したままであった株式については口頭弁論終結時の時価で損害を算定した(過失相殺3分の2)。
 ハイリスク取引における顧客の意思確認の重要性への理解を示した点は大いに評価できるが、売買回転率をはじめとする数値分析に基づいた過当取引の主張を黙殺している点には、多大の疑問があると言わざるを得ない判決である。