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解    説

■判  決: 京都地裁宮津支部平成16年10月1日判決

●商  品: 株式
●業  者: 岡三証券
●違法要素: 適合性原則違反(過当取引事案)
●認容金額: 805万6006円
●過失相殺: 6割
●掲 載 誌: セレクト25・256頁
●審級関係: 

 事案は、視覚障害を有する原告が株取引(信用取引を含む)を行ったところ、損失を被ったというもので、原告側は過当取引、適合性原則違反、説明義務違反などを根拠に、損害賠償を求めていた。(なお、原告は、当初は妻名義の口座を設けて取引を行っており、途中から自己名義の口座で取引を行うようになったものであったが、判決は、これらすべての取引につき、原告の主張のとおり、取引主体は原告であったと認定した。)
 判決は、過当取引については、買付回数が多く、資金回転率(平成9年1月から12月が約4.6、同10年1月から12月が約11.1、同11年1月から4月が約70.5、同11年5月から12年4月が約44、同12年5月から13年2月が約19.4)も非常に高く、保有日数が短い取引が多いことから、短期間のうちに頻繁に売買が繰り返されていたことは顕著であるとし、さらに、本件取引による手数料は原告が被った損害を上回っているとの指摘も行った。ところが、判決は、原告自身が積極的な投資態度を有していたと認定し、このことを根拠に、上記のような形態の取引であっても直ちには違法とならないと判示した。また、説明義務違反についても、信用取引や店頭株の危険性につき一応の説明があったとして、違反はないとされた。
 他方、適合性の問題に関しては、判決は、原告に視覚障害があり、自ら取得できる情報が限定的で、その多くを被告担当者からの情報提供に依らざるを得なかったこと、投資資金の性質も余裕資金ではなかったことを指摘した。その上で判決は、被告担当者からの情報提供の中には、担当者自身の投資判断や提案が一体として含まれていたものと推認されるから、結局は、原告が被告担当者の勧めに従って個々の取引を行っていたのとそれほどかわらない実質があったとし、さらに、その取引態様に照らして、原告が店頭株の取引や信用取引がハイリスク・ハイリターンの取引であることや、注文を多数繰り返せば手数料がかさんで利益が減る仕組みを余り理解せずに注文を繰り返していたものと推認され、およそ合理的な判断に基づいて投資をしていたものとは言い難いと判示した。そして、以上に上記の取引の回数や頻度等の客観的状況をも総合すれば、本件取引における勧誘行為は適合性原則に違反しており、不法行為を構成するとした(過失相殺6割)。
 端的に過当取引の違法が肯定されるべき事案であったようにも思われるが、過当取引としての違法性を直ちには肯定できずとも、取引の過当性をも一要素として、適合性原則違反を肯定できるとの構成をとった点では、興味深い判決であると言える。