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解    説

■判  決: 大阪地裁平成16年7月14日判決

●商  品: 外債(アルゼンチン債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: その他(判断を誤らせる表示)
●認容金額: 330万円
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: セレクト24・270頁
●審級関係: 控訴

 事案は、会社経営者であり外債の取引経験もある原告が、勧誘によって平成12年9月に公募発行のアルゼンチン国円貨債券を1000万円で購入したところ、平成13年12月にアルゼンチンが対外債務の支払を停止したことにより償還を受けられなくなり、損害を被ったとして、証券会社及び担当社員に説明義務違反等を主張しての損害賠償請求を行ったものであった。
 判決は、勧誘時の状況については、安全性を強調した説明を受けたとする原告の供述、リスクを具体的に説明したとする担当社員の供述の双方につき、的確な裏付証拠がないため供述どおりには認定できないとした。また、判決によれば、目論見書の交付は行われており、低格付債であることについてのリスクが記載された確認書の徴求も行われていた。
 しかし判決は、勧誘時に、被告証券会社の営業企画部デット・キャピタル・マーケット部作成のアルゼンチン債に関する社外秘の書面が原告にファックス送信されていたこと(原告はこのファックスを現に所持しており、証拠として提出していた)を重視し、同書面の「安定した直接投資、証券投資を保証する」との記載は顧客の判断を誤らせる可能性のある相当性を欠いた記載であるとした。さらに判決は、同書面の「改革が進む中南米のヨーロッパ」「先進国並の社会構造」「経済は回復基調へ」「沈静化するインフレ・安定化する金融市場」「国際投資家による高い評価」「改善が見込まれる格付け」といった記載は、いずれも抽象的な表現でアルゼンチンの政治、経済、金融等が健全であることを強調する表現であると指摘し、外国債を勧誘するにつき、その国の政治、経済、金融等の欠点等を捨象した抽象的かつ肯定的な評価をする表現を用いることは、顧客の判断を誤らせる可能性があり、相当性を欠くと判示した。以上に加え、同書面ではこのような表現が強調して目立つ形で表示されていたこと、同書面は目論見書より字も大きく読みやすい内容となっていたこと等をも指摘した上で、判決は、かような文書を顧客に送信したことは違法行為となるとして、担当社員の不法行為を肯定し、被告証券会社の使用者責任も認めた(過失相殺7割)。
 過失相殺は高いものの、外債につき、単なる信用リスクの有無にとどまらず、その内容、程度に関する不相当な表示の違法性が肯定された点において、先例的価値を有する判決である。また、本件では、顧客にファックスされた書面が現存していたことから、低格付でリスクの高い状態にあった外債につき、証券会社がこれを売り捌くために如何に偏った評価や位置付けを行っていたかが明らかになっており、かような点も、証券会社の勧誘、販売の実態を窺わせるものとして、注目に値すると言える。