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解    説

■判  決: 東京地裁平成15年5月14日判決

●商  品: 株式
●業  者: 大和証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 652万7854円
●過失相殺: 3割、7割
●掲 載 誌: 金融商事判例1174・18頁
●審級関係: 確定

 原告は、取引時74歳の未亡人であった。平成3年頃から他社での証券取引経験(長期保有目的の株式取引もあり)を有し、平成5年頃から被告証券会社での取引を開始したが、被告証券会社では、担当者がAに替わる平成12年1月までの間は、債券、転換社債、投資信託の取引のみを行っていた。かような原告が、担当者が交替した平成12年1月以降の約半年間に、勧誘により購入させられた投資信託や株式(いわゆるIT銘柄や外国株も含まれていた)による損失につき、適合性原則違反、断定的判断の提供、説明義務違反を理由に、証券会社に対して損害賠償を求めたのが本件訴訟である。
 判決は、投資信託や原告も熟知していた大企業の株式については原告の請求を退けたが、IT関連の外国株については、「その企業の事業内容や今後の業績見通しなど、投資判断に必要な情報を収集して適切な投資判断をすることが、国内企業の場合に比べて困難であり、また、米ドル建てであるため、為替相場に関する知識や情報も要求される。原告は証券取引に関する知識に乏しく、自分だけで投資判断を行ったことがなく、投資判断に必要な情報の入手は証券会社の担当者に依存していたというのであるから、そのような原告に、外国株式について自主的な投資判断を期待することはできない。」と判示した上で、株価変動に加えて為替相場の変動による損失の危険性もある点につき原告に知識や経験があったとは認められないこと、原告の投資目的は長期的に堅実な投資を行うというものであったことから、かような外国株の取引は明らかに過大な危険を伴う取引であって、その勧誘は適合性原則違反として不法行為になるとした(過失相殺3割)。
 また、国内のIT関連株(光通信株、ソフトバンク株、グッドウイル株)については、判決は、まず説明義務につき「証券会社が顧客に取引を勧誘するにあたっては、顧客が自己責任をもって取引を行うことができるようにするため、取引の内容や顧客の知識経験に応じて、取引に伴う危険性についての説明をすべき義務がある」との一般論を述べた上で、これらの株式はいずれも急激に株価が上昇しており、反面、過去においては短期間で価格が大きく上下する場面も見られ、将来を有望視されていると評価できる一方で、人気が過熱気味で価格動向に不安定さを残すという評価もできる状況にあった、急落の危険性も大きかったとし、「長期的な堅実な投資目的をもっていた原告に対し、ソフトバンク株、光通信株、グッドウイル株の勧誘を購入するにあたっては、このような危険性をも考慮に入れて原告が的確な投資判断を行うことができるように、有望な銘柄ではあるが株価動向には不安定な部分があり、下落に転じた場合には大幅な損失を被る可能性もあるという具体的な危険性について説明をすべき義務があった」と判示して、説明義務違反による不法行為を認めた(過失相殺7割)。
 現物株式取引につき、適合性原則違反のみで不法行為が認められた点、現物株式取引につき個別銘柄の具体的危険性についての説明義務違反だけで不法行為が認められた点において、画期的な判決と言うことができ、とくに後者は前例のない初の判断として注目に値する。