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解    説

■判  決: 神戸地裁平成15年2月21日判決

●商  品: 株式
●業  者: 勧角証券(現・みずほインベスターズ証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 137万2210円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト22・54頁
●審級関係: 

 本件は、いわゆるネットバブルの最中、異例のスピードで平成12年4月に東証1部上場を果たした日本オラクル株につき、上場直前の激しい値動きを示していた時期に、印刷工でありさほどの株式取引経験がなかった原告に対して行われた勧誘が問題とされた事案である。
 判決は、原告の過去の取引は担当者に大きく依存してほとんど言われるままに従っており、原告は証券取引に関して初級者の域を出ていなかったと認定し、また、本件株式が乱高下しており極めて投機性の高いものとなっていたこと、原告はこれまでにハイリスク商品に手を出したことがなかったこと、原告は何度か行われた短時間の電話でその日のうちに本件株式購入を決めていること等を認定した。なお、証券会社側は、勧誘時に目論見書を持参し、交付したと主張したが、判決は、これを認めるに足りる証拠はないとして、その主張を排斥した。さらに、証券会社側は、本件取引以前の平成11年に投資信託の説明を巡って原告が苦情を申し出たことがあったが、結局、原告は納得して苦情を撤回し、今後は自己の責任と判断で取引を行う旨を記載した自己の非を認める内容の念書を差し入れて取引を継続していたことを問題としたが、判決は、これを原告に不利益に扱わず、むしろ原告が金融監督庁からのごく初歩的な説明で自己の非を認めていることは、逆に原告が証券取引につき初歩的なことさえ分かっていなかったことを裏付けるものと言えると判示した。
 そして判決は、原告の収入・資産の程度、原告が証券取引につき初級者の域を出ていないこと、本件株式のリスクの高さや原告がこれまで安全性を重視した取引を行ってきていることなどから、本件勧誘は適合性原則に違反していると判示した。また、勧誘時の説明についても、本件株式のような投機性の高い株式の購入経験がない原告に対し、僅か3分強の電話で、本件株式の特性であるハイリスクについて、十分な説明がなされたとは考えがたいとして、説明義務違反が肯定された。但し、過去のトラブルや念書差入れの経緯が重視され、8割の過失相殺が行われた。
 過失相殺は高率に過ぎるが、勧誘に依存した素人の顧客の取引の実情に理解を示した事実認定は実に正当であり、現物株式取引(東証一部上場直前の店頭銘柄)につき適合性原則違反や説明義務違反が肯定された点も、極めて重要な意義を有している。