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解    説

■判  決: 京都地裁平成14年9月18日判決

●商  品: オプション
●業  者: 菱光証券(現・東京三菱パーソナル証券)
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 1457万4113円、1090万9795円、746万7421円
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: セレクト20・331頁、判時1816・119頁
●審級関係: 控訴審にて和解成立

 会社経営者ではあるが高齢の男性とその妻、娘(いずれも主婦)の平成8年〜9年の日経平均株価指数オプション取引につき、適合性原則違反のみにて違法勧誘による不法行為責任を認めた判決である。
 判決は、オプション取引の社会的意義の考察から出発して、リスクヘッジの必要性のない者が利鞘稼ぎのために行う指数オプション取引は、「賭博性」の側面を強く持ち、このような「賭博性」の危険を承知で引き受ける者のみが行うべき取引であって、通常の多くの個人投資家には適合しないと判示した。その上で、判決は、オプション取引の仕組みの難解さや高度の専門性と情報力が必要となること、投資主体の大半が証券会社や機関投資家等であって個人投資家は数パーセントに過ぎないことから、個人投資家がオプション取引に参加することは「賭博の勝ち方に関して知識の乏しいままにプロが相手の賭博場に参加していくことを意味することになり、もともと「ゼロサム市場」において5分5分の危険であったものが、無知ゆえのハンディを抱えて算入することになって危険のみが増大することになる」とした。
 そして判決は、原告らには相当の資金力や投資経験があったから、仕組みを十分に理解して、賭博性を承知の上で利鞘を稼ごうと取引を始めたのであれば、本件勧誘が一概に適合性原則違反であるとは言えないが、原告らがこのような認識を持っていたとは認められず、そのような認識を持つ能力もなかったし、証券会社担当者はこのことを十分認識していたと判示し、証券会社担当者は「顧客がオプション取引の仕組みと危険性を理解することを可能とする能力と取引経験及び社会経験を有していると認められる場合にのみ、これを勧誘すべきであって、そうでない場合には、これを勧誘してはならない注意義務を有している」として、適合性原則に違反した本件勧誘は私法上も違法であるとした。
 なお、過失相殺に関しても詳細な判示がなされており、原告らにも全面的に勧誘に従っていれば儲けさせてくれるとの安易な考えがあったとの指摘が行われつつ、こうした態度は証券会社担当者の行為の違法性を超えるとまでは評価すべき事柄ではなく、むしろ、証券会社が得た高額の手数料や、不適切な事後処理(リスクの高い売りを行うことで一時的に損失を解消しようとするロールオーバーという手法をとったこと)によって損失が拡大したことをも重視して、過失相殺は2割にとどめられた。
 リスクヘッジという社会的有用性を失えば賭博に他ならないオプション取引に、プロの投資家のような難解な取引分析もリスク管理もできない個人投資家を巻き込むことの問題そのものを正面から見据え、説明義務の問題に逃げてしまうことなく適合性原則違反による不法行為を認めた点において、極めて重要な判決と言える。(原告らは説明義務違反や過当取引の主張も行っていたが、判決は、これらについては判断を行っていない。)