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解    説

■判  決: 福岡地裁平成13年1月29日判決

●商  品: 株式(信用取引)
●業  者: 新日本証券(判決時の商号・新光証券)
●違法要素: 過当取引、適合性原則違反
●認容金額: 証券会社の決済損金請求から605万9146円を減額
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: 未掲載
●審級関係: 

 本訴訟は、まず証券会社が顧客に対して信用取引の決済損金約650万円を請求する訴訟を提起したところ、顧客が平成10年1月から6月までの取引につき、断定的判断の提供、注文不執行、過当取引、適合性原則違反を理由として損害賠償請求権の存在を主張し、これを上記決済損金と相殺した後の約865万円につき反訴を提起したというものである。なお、顧客は、全漁連の支所長や経理等の検査の職務に従事した後、平成7年に60歳を迎えて退職しており、信用取引はこの頃に開始されていた。
 判決は、勧誘文言の中には多分に断定的な口調が含まれているものもあるとしつつ、顧客の属性や勧誘状況から違法性を否定し、注文不執行の事実も認めなかった。しかし、過当取引については、「(証券会社は)信義則上、受託者として顧客の利益を図る高度の信任義務を負い、当該顧客の知識、経験、投資目的、資力等に照らして、不適切に多量、頻繁な取引を勧誘してはならない注意義務を負う」との前提の下、これまでの過当取引についての顧客勝訴判決と同様、違法な過当取引となるには過当性、口座支配性、悪意性の3要件が必要であるとした。そして約5ヶ月間に217取引(売り買いの1組を1取引としている)が行われていること、保有期間が短期のものが非常に多いこと、証券会社が得た手数料は損失全体の36.81%に達していること、上記約5ヶ月間の売買回転率は年換算で約95回に及んでいることから過当性を認め、詳細な事実認定により口座支配性も肯定し、これらから悪意性も優に推認できるとして、違法な過当取引に当たることを認めた(なお、売り直し・買い直し、日計り、両建、手数料不抜けといった取引も少なからず含まれていること、これらは顧客の利益を害するおそれがある取引態様であることも指摘されている)。さらに判決は、信用取引の勧誘自体が適合性原則に違反するとまでは言えないとしつつ、上記の違法な過当取引の勧誘の一環としてなされた勧誘については、これが適合性原則違反となることを認めた。
 但し判決は、顧客は信用取引の危険性を十分に認識できていたなどとして8割の過失相殺を行った。その結果、証券会社の決済損金請求は大きく減額されて約44万円が認容されるにとどまったが、顧客の反訴請求は棄却された。
 過当取引の違法性に関する判示部分は実に正当であるが、95回にも及ぶ資金回転率(判決も「異常」と評価している)や売り直し等の取引態様からすれば、もはや「客殺し」と言うべき取引ではなかったかと思われ、高率の過失相殺は疑問である。