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解    説

■判  決: 東京地裁平成12年8月31日判決

●商  品: ワラント
●業  者: 野村證券
●違法要素: その他(一任取引、断定的判断に類似する行為)
●認容金額: 1035万8378円
●過失相殺: 5割、7割
●掲 載 誌: セレクト16・375頁
●審級関係: 控訴

 判決によれば、原告は、東京大学卒業後、大手生保会社に入社して本件取引時は管理職の地位にあり、ワラントを含む金融商品についての理解、認識が十分あったとされており、また、昭和55年以降野村證券との取引を継続的に行い、平成5年9月から平成8年7月までに14回のワラント取引を行い、本件取引前にワラントによる損失も経験していたとのことである。
 本件で問題とされたのは、後半の6回のワラント取引であり、原告は、これまでのワラント取引の経験から、ワラントは売り時がわからないので取引を止めたい旨を表明していたのに、担当社員は「売り時はこちらで判断します」としてワラントを勧誘したものである等の主張を行った。
 これに対して判決は、常識に即した子細かつ適切な証拠評価によって、原告が投資に慎重で、以前は一回当たりの投資額も少なかった(1000万円を超えることはなかった)が、本件取引の頃にはワラント購入額が1000万円を超え、さらに2000万円を超えるという状況になったこと、それまで原告は新規発行ワラントを特別の計らいで勧誘してもらっているとの理解の下に取引をしていたが、本件取引の頃までにはそうではないことに気が付いていたことなどから、原告が本件取引のうち最初の2つのワラント(同一銘柄が連日購入されたもので、購入代金合計約2000万円)の購入に踏み切るにあたっては特別の事情が存在したものと推認できるとした。そして原告の取引が当時、連戦連勝の状況にあったことを考慮しても、担当社員の供述は右特別の事情を十分説明することができておらず、原告の供述どおり、担当社員が売り時を判断することを請け合ってくれたものと受け止められる言動をしたものと推認されるとし、「そのような言動は、一任取引及び断定的判断の提供に類似する行為として、違法性を帯びるものといわざるを得ない」とした(過失相殺5割)。
 但し、判決は、担当者が異なり、一回当たりの購入単価も200万円台までであったその余の4つのワラント取引については、担当社員が売り時を判断すると述べたとの点につき原告の立証が尽くされておらず、また、これらのワラントは低ポイントのワラントであったものの、担当者の説明や取引の経緯、原告の属性や取引経験とワラントについての理解、過去に低ポイントワラントで損失を経験していることなどから、かようなワラントを勧誘したこと自体が違法とまでは言えないとした。
 後者の判断には疑問も残るが、原告の属性や取引経験のためかワラント事案としては珍しく説明義務が問題とされなかった事案において、言った言わないの中での「特別の事情」を基礎とした適切な事実認定手法がとられ、担当社員が売り時を判断することを請け合うという新たな違法行為類型が認められた点(原告側は、かかる行為が顧客の自由な判断を損ない、投資判断過程に不当な重大な影響を与える行為であったことを主張しており、判決もかかる実質的な観点から違法性を認めたものと思料される)は、実に正当であり、有意義である。