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解    説

■判  決: 東京高裁平成12年7月24日判決

●商  品: 株式
●業  者: 新日本証券(現商号・新光証券)
●違法要素: 外務員の騙取・横領
●認容金額: 2154万0635円、100万円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト16・99頁
●審級関係: 横浜地裁平成11年12月17日判決(データあり)の控訴審・認容額増額、上告審で破棄差戻し後一部勝訴

 証券外務員が、顧客に対し、上客だけしか利用できない「客方」という特別に運用する口座があるので、そこに入れると有利だなどと勧誘し、顧客37名からお金を預かり、顧客への損失補填等に流用したが発覚したという事案であり、一審判決の原告ら以外の33名は、いずれも和解が成立して残金の3割〜10割が新日本証券から支払われたが、外務員と当時姻戚関係にあった2名と預託金の原資の証明が十分できない1名とその夫の計4名が和解を拒否され、原告となって提訴した事件である。
 主位的請求は預託金返還、予備的請求は不法行為(使用者責任)であったが、一審判決は、主位的請求を棄却し、予備的請求を一部認容した。預託金額は原告主張どおり認容され、原告Aについては過失相殺もなかったが、B夫婦、Cについて過失相殺が行われ、しかも預託金全額を基準に過失相殺を行ったうえでその後の返還額を控除するという特異な判断がなされたため、請求額に比して認容額は大きく減少した。(原告らのうち、A、Cにつき控訴ないし付帯控訴が行われた。)
 本控訴審判決は、一審では過失相殺が行われたAにつき、「新日本証券が証券会社として取り扱う株式、投資信託等の各種の商品に対する投資資金を、その投資対象とする商品の選択を新日本証券側に一任するという形で新日本証券に預託するという形態の取引であった」として、「新日本証券の業務の範囲外の取引であるものとすることはできず」、「代理権の範囲外の行為であるとすることはできない」と判示した。また、新日本証券は、担当外務員の権限濫用につき、Aは売買報告書、受渡計算書、取引明細書、預かり証等の交付も受けていなかったから悪意ないし重過失があると主張したが、判決は、不審に思ったAの妻が新日本証券に電話したところ「客方」という口座の存在が確認できたこと、Aは照合通知書に代わるものとして外務員の手書きの残高報告書の交付を受けてこれを信用していたことから、Aには悪意も重過失もないとし、取引経過からして、信義則ないし過失相殺の法理を適用して金額を減額すべき事情を認めることも困難であるとして、Aの預託金返還請求額全額を認容した。
 なお、Cについてはもともと中国ファンド購入資金として預託された金員がCに無断で「客方」に入金されていたため、単純に預託金返還請求が認められた。但し、預託金返還請求をなし得る以上、不法行為は成立しないとの論法により、弁護士費用の請求は否定された。
 
 ※本件のその後
  Aに関して上告受理申立が行われ、上告審判決は、本件の外務員の行為が証券取引法64条(現64条の3)が規定する証券外務員の代理権の範囲内の行為であったか否かにつき、本件のケースは、証券会社として行いうる実体を有しない架空の取引であるから同条の「有価証券の売買その他の取引」に当たらないとして、本判決を破棄して預託金返還の主位的請求を棄却し、不法行為を理由とする予備的請求の審理のために東京高裁への差戻しを行った。
 そして、差戻後の東京高裁平成15年8月11日判決においては、不法行為が肯定されたが、8割の過失相殺が行われた。