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解    説

■判  決: 名古屋地裁平成12年3月29日判決

●商  品: 投資信託
●業  者: 東海証券(判決時の商号・東海丸万証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反、無断売買
●認容金額: 1097万4803円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: 金融商事判例1096・20
●審級関係: 控訴

 本件は、高齢で無職の年金生活者である原告ら(夫婦)が、2つの投資信託の取引につき、主位的に無断売買、予備的に適合性原則違反、説明義務違反を主張した事案である。
 判決は、まず、先行して購入された投資信託は無断購入ではなかったとした。しかし、後行の投資信託については、関係書類の作成、送付の事実から、原告らの意思に基づく購入であったと一応推定されるとしつつ、担当社員の証言を直ちには信用しがたいこと、購入当時株価は暴落を繰り返しており、借入をしてまで投資信託を購入するとは考えがたいことなどから、原告らの意思によらずに購入された可能性を否定することもできず、上記推定は覆され、結局、証券会社側の証明が不十分であるとして、無断売買を理由とする原告の請求を認めた。なお、本件には、預託された複数の有価証券が上記の2つの投資信託の購入のために処分されており、どの証券がどの投資信託のために処分されたかを特定できないという特殊事情があったところに、先行の投資信託は無断売買ではなかったとされたため、預託証券の返還請求は否定された。しかし、判決は、原告らは預託証券の売却代金のうち、後行の投資信託が購入されなかった場合に残存したはずの金額を請求できるとした。
 次に、判決は、無断売買ではないとした先行の投資信託についても、原告らの属性に加え、借入による購入であったことから10%以上の年利回りが確保できなければ手取額で元本割れする取引であったことを重視して、本件勧誘が適合性原則違反に当たることを認めた。次いで判決は、十分な説明、理解があった上で購入されたのであればその損失は原告らに帰属すべきものであるとして説明義務違反の有無を検討し、原告らが投資信託には元本保証がないことを知っていたと推認できるとしながらも、当該投資信託につき十分な説明は行われなかった上、担当社員は、借入金利を負担しなくてよいとの趣旨の発言を行い、これによって原告らは購入を決意するに至ったとして、説明義務違反を認めた(なお、判決は、取引の危険性や原告らの属性からして、金利や手数料を差し引いた損益がどうなるかを説明しないこと自体が説明義務違反を構成するとしている)。結論として判決は、適合性原則違反、説明義務違反による債務不履行責任を認めている(弁護士費用も認められた)。但し、5割の過失相殺が行われた。
 投資信託につき適合性原則違反を認めた初めての判決ではあるが、説明さえあれば問題がなくなるがごとき判示内容は極めて疑問である。また、借入金利や手数料との関係における説明義務を肯定した点は正当であるものの、判決から判明する原告らの属性(上記属性に加え、夫は右半身麻痺、妻も病気で文字を読むことが困難であった)、株価暴落時の枠一杯まで借入を行わせての投資信託購入(上記のとおり、担当社員から金利は負担しなくてよいと誤解させる発言まで行われたと認定されている)、後行の投資信託の無断購入を考えれば、もはや詐欺事案であると言うことができ、5割の過失相殺は全く不合理である(原告らは慰藉料請求も行っていたのであるが、まさに過失相殺どころか慰藉料が認められるべき事案であったように思われる)。