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解    説

■判  決: 東京高裁平成8年11月27日判決

●商  品: ワラント
●業  者: 大和證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 285万0434円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト5・289頁、精選343頁、判例時報1587号72頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴、
       最高裁平成10年6月11日判決(セレクト8・315頁、精選365頁)で上告棄却

 本判決はまず、証券取引の勧誘全般につき、証券会社ないし担当社員は「投資家の職業、年齢、証券取引に関する知識、経験、資力等に照らして、 当該証券取引による利益やリスクに関する的確な情報の提供や説明を行い、投資家がこれについての正しい理解を形成した上で、その自主的な判断に基づいて 当該の証券取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務を負う」とした。その上で、ワラント取引につき、@投資家の職業、 年齢、証券取引に関する知識、経験等を踏まえ、ワラント取引一般の特質(ワラント取引における権利行使期間の制約の存在という特質及びワラントの 価格変動の大きさと価格変動予測の困難性という特質)を十分に説明しなければならないと判示し、さらに、A投資家が本件ワラント取引による利益やリス クに関する的確な理解を形成し、その自主的な判断に基づいて本件ワラント取引を行うか否かを決定する上で、本件ワラントの権利行使期間及び権利行使価格の説明をすることが不可欠であると判示した。そして@については、勧誘者は、60代半ばを過ぎた控訴人に対し、説明書の事前交付もせず、主として電話に よって、口頭で説明するだけでは不十分であり、Aについても、権利行使価格の説明はなかったと認定した。
 また、本判決は、株価が権利行使価格を下回り、かつ権利行使期間が2年を切るようになった銘柄は、取引される割合が大きく低下する傾向が認められる との前提の下、本件では、買付時における株価が本件ワラントの権利行使価格を大幅に下回っていたこと、バブル経済の崩壊に伴って株価の暴落が始まり、 その後も株価続落が続いていた状況であったことから、本件ワラントの権利行使の残存期間は、形式的には3年4ヶ月余りであったが、実質的にはすでに2年 を切っている商品であると評価している。
 本判決は上告審でも維持されており、「投資家が自主的判断を行えるようにするための配慮義務」という構成は、多数の裁判例において踏襲されている。 かような配慮義務を前提とするとき、形式的な説明では足らず、投資家の理解を得ることが必要とされることは当然である。このような意味においても、 本判決は、投資家の自己責任の片面的強調から、自己責任の確保・実現のための証券会社の注意義務の重視へ、という裁判例の大きな流れの転換のメルクマールとなった判決であると言えよう。