金融・資本市場に係る制度整備について(平成22年1月21日)に対する意見


                             2010年2月26日

                                全国証券問題研究会
                                    代表幹事  塚田裕二
             
                      幹事長   近藤博徳
                                    事務局長  洞澤美佳
                                    事務局次長 西本 暁

当研究会は証券取引被害救済の研究を目的とした弁護士団体であるが、金融庁が平成22年1月21日に公表した「金融・資本市場に係る制度整備について」の「X投資家保護・取引の公正等の確保 2デリバティブ取引一般に対する不招請勧誘規制のあり方」に対し、次のとおり意見を述べる。



第1 結論
 取引所取引も含めデリバティブ取引一般を不招請勧誘禁止規制の対象にすべきである。
 また、仕組み債、仕組み預金、ノックイン型投資信託等、いわゆる「仕組み商品」と呼ばれる、デリバティブ取引を組み込んだ金融商品についても、不招請勧誘禁止規制の対象とすべきである。

第2 理由
1、当会の2005年9月28日意見
 金融商品取引への不招請勧誘禁止規制の導入は当研究会もすでに2005年9月28日の『投資サービス法制定に関する「中間整理」に対する意見』において強く主張してきたものである。その基本は現在においても全く変わらないが、その後の議論を踏まえ、改めて意見を整理する。
2、不招請勧誘の禁止が必要であること-これまでの被害実態を踏まえて
 これまでの投資取引の被害実態を見ると、ワラント事件、変額保険事件、外国為替証拠金取引事件(FX)、商品先物取引事件など、どれをとっても圧倒的な割合で不招請の勧誘に原因がある。したがって、不招請の勧誘を一律に禁止すれば被害が激減することは明らかである。過去にはこのような実情を踏まえて、金融先物取引法が改正され(平成17年施行)、外国為替証拠金取引について不招請勧誘禁止が立法化された経緯がある(もっとも、平成18年、金融商品取引法の改正に伴い、金融先物取引法が統合されるのに際して取引所取引に対する規制が解除されてしまったことは、被害救済を後退させるものである。)。
3、反対論への批判
 一部に、勧誘を禁止するのは営業の自由に対する制約であるとの誤解も見られる。確かに営業の自由は憲法上も保障された権利であるが、不招請の勧誘は私生活の平穏に対する侵害行為であり、このような侵害行為をする権利というものは存在せず、営業の自由には含まれない。
 仮に百歩譲って不招請の勧誘が営業の自由の一部であるとしても、営業の自由は公共の福祉に反しない限りにおいて認められるものであり、「営業の自由に対する規制」であることが不招請勧誘の禁止を否定する理由とはならない。そのため、実際にこれを禁止する規制も存在するのである。
 不招請の勧誘は望まない勧誘は私生活の平穏の侵害という加害行為的側面を有する行為であるうえに、かかる方法による金融商品の勧誘行為が甚大な取引被害をもたらしてきたことは上述のとおり経験則上明らかなことであるから、不招請勧誘行為を規制することには十分な有用性と合理性がある。「営業の自由」を錦の御旗のように振りかざす論は、問題の本質をすり替えるものである。
 他方、ネットによる証券取引の隆盛をみれば明らかなとおり、需要があれば勧誘がなくとも取引は活性化する。しかも、ネット取引ではシステム障害による損害賠償という新たな被害類型を生んだが、勧誘がないため紛争も少ない。何よりも現在規制対象となっている店頭FXはネット取引を主体に取引規模を拡大している。
 また、不招請の勧誘を禁止すると投資家に対する情報提供の機会が失われるとの意見が紹介されているが、業者は、ネットを利用することにより、電話勧誘などよりもはるかに大量の情報を効率的に提供することができるので、この意見は誤りである。なお、これが、投資家が情報取得の機会を失うとの意味であっても、それもまた、まったくの誤りである。ここでもネット取引の例を示せば明らかであろう。ネットでは、例えば電話勧誘などよりもはるかに大量の情報を正確かつ効率的に取得できる。投資家は情報を取得できれば足りるのであって、望まないのに与えられる必要はない。反対論の本音がこれらと異なり、業者の勧誘の機会が失われるという意味ならば、それは不招請の勧誘禁止を批判する理由ではなく、単に顧客の立場に配慮しない業者の営業成績向上などの自己都合を言っているに過ぎないことになり、説得力をもたない。
 先に指摘したとおり、不招請の勧誘禁止は、現在、金融商品取引法に引き継がれているが、政令で店頭FXにのみ適用があるに過ぎない。しかし、その導入理由はリスクの高い商品には適用されてしかるべきという判断であった。そうであれば、規制対象を店頭FXに限定する理由は全くなく、かかる導入理由はデリバティブ取引一般に妥当する考えである。
 更に言えば、主体的な取引意思を持つ者により構成される取引市場が「効率的で良い市場」なのであるから、不招請の勧誘禁止は、広く金融商品一般についての行為ルールとなることが望ましい。これは国際的な流れとも整合する。
 なおも、反対論は、顧客に適切な商品の情報を提供できなくなり、我が国の金融サービスの発展を阻害する、とくに保有資産のヘッジ・ニーズ等に応えるためにはデリバティブ取引の能動的勧誘が必要になる場合があると主張するが、広告は自由であり、ヘッジ・ニーズに応える方策が業者や顧客双方にとって全く閉ざされるということはない。デリバティブによるリスクヘッジを自己責任で判断できるような人は情報収集能力も高いと考えるのが実際的であるから、ニーズのあるところに情報が届かないという懸念は杞憂である。
 むしろ広告を見て自分から勧誘を求めたのではなく、意図していなかったのに不意打ち的に個別に勧誘されて取引したことから生ずる「専門業者がお勧めだというからこそ信じて、良く分からずに取引をしたのに、業者に損させられた」という不招請勧誘に典型的なトラブルこそが問題なのである。そもそも、業者からの情報の提供のみに依存するしかない判断能力の人は保有資産はあったとしてもデリバティブ取引には適合しないというべきである。このように投資家の意図しない不合理な取引を抑止し、投資家が本来享受すべき利益という側面から考えた場合には不招請勧誘を禁止しても不都合はないというべきである。
 「デリバティブは押し売りされるものではない」というのが、長年に亘って金融商品トラブル事件の被害相談に当たり、その経験と知識を共有してきた当研究会の所属弁護士たちの共通の認識である。
 なお、適合性原則が自主規制では不十分であったことから明らかなとおり、不招請の勧誘禁止も自主規制では全く不十分であることを付け加える。
                                                 以 上

添付資料
1.2005年9月28日の『投資サービス法制定に関する「中間整理」に対する意見』書