平成11年12月8日 日本経済新聞(朝刊)

 【見出し】 金融商品販売にルール リスク説明義務付け
       金融審骨格固める 違反者に賠償責任
       法案を来年提出

 金融審議会(蔵相の諮問機関)第一部会は7日、金融機関の利用者保護に向けた「金融商品販売・勧誘ルール」の骨格を固めた。商品内容の説明を販売業者に義務付け、説明を怠って損害が発生したら賠償責任を負わせるのが柱。大蔵省はこのルールを金融自由化に対応した包括的な顧客保護の枠組みとなる「金融サービス法」の中核に位置付け、今月下旬に金融審がまとめる答申を受けて、法案を来年の通常国会に提出する。

 新法は紛争処理の補償体制などについては新たな対応を盛り込んでいない。金融商品の管轄が複数の業界や省庁にまたがり、短期間で調整するのが困難だったためだ。
 このため、金融審第一部会は年明け以降、英国の「金融オンプスマン制度」のような裁判所以外での紛争処理を検討する。業界から離れた公正で中立な第三者機関の新設が焦点。来年6月の最終答申に具体案を盛り込み、できるだけ早い時期に国会への法案提出を目指す。
 今回の新法で説明義務の対象になるのは、株式など有価証券や預金、保険、抵当証券など。郵便局が取り扱う郵便貯金や簡易保険なとを含めるかどうかはなお検討中で、ゴルフ会員権や宝くじなどは対象外。
 可能な限り法律で対象となる金融商品の種類を例示し、詳細は政令で定める。新しい金融商品が相次ぎ開発されている実情を踏まえ、できるだけ速やかに対応。類似商品も含める工夫を凝らし、あらゆる金融商品をカバーする方針だ。ただこうした「例示方式」で商品開発の速度に追いつける一かどうか、疑問視する声も残っている。
 説明を義務付ける具体的な内容は、為替や株価などの相場変動で収益が代わる可能性や、途中解約による損失の発生など商品の購入に伴うリスク全般。説明する具体的内容や手法に関しては、業界全体にガイドラインなどを作成・公表させることも検討する。
 機関投資家など金融の専門家に対する商品販売については、説明義務の対象から除く。
 金融商品を販売する際に、銀行などが購入代金を融資する「セット融資」は変額保険で社会問題になった。
 これについては、融資した金融機関が実質的に金融商品の販売に関与していると認められる場合は、説明義務違反に対し民事上の責任を求める方向。複数の業者による連帯責任のあり方については今後詰める。
 一方的な訪問・電話などによる不適切な勧誘の防止に向けては、業者自身の自主的な対応を重視する。商品勧誘の基本的な方針について各業者に社内規定の整備・公表を義務付ける。
 詐欺まがいの勧誘に関しては経済企画庁が法案提出を準備している「消費者契約法」の規定をそのまま適用する。
 金融審第一部会では、勧誘の段階で法令に違反した場合、直ちに監督当局が制裁措置をとることには慎重な意見が多かった。

「顧客の理解度に応じた説明必要」
 石戸谷豊・日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長
 金融商品の販売に説明義務が課されるのは望ましいが、問題は顧客の知識や理解度に応じた説明が実際に行われるかどうかだ。金融審議会は「十分な説明義務」の具体的な内容を業界団体の指針や販売業者のコンプライアンス(法令順守)にゆだねる方向だが、それで十分な効果があげられるかどうかは不透明だ。
 デリバティブ(金融派生商品)など複雑な商品のリスクを説明義務でカバーしようとしても限界がある。顧客の理解が難しい商品については販売を自粛するルールなどの検討も必要になる。

「道半ばの消費者保護」
 最初からピースの数が足りないのがわかっていて組み立ててるジグソーパズルのようなものかもしれない。金融審議会がまとめた金融商品の販売・勧誘ルール案は、金融サービス法の柱の一つになるものだが、同審議会が7月にうたった「21世紀の金融を支える制度的な基本インフラ」の絵を仕上げるには、欠けるものが多すぎる。
 必要なのは、グローバル化、情報通信技術の進展に対応して、金融取引に伴うリスクとリターンの責任を明確化する枠組みだ。バブル崩壊で頻発した変額保険トラブルなどの再発を避けると同時に、適正ルールの明確化で、過度に預貯金に集中している1300兆円の個人金融資産の効率運用を促すことでもある。
 金融商品の融合や、金融機関同士が業態を超えて提携・連携を進める中では、政令による個別指定ではなく、預貯金、有価証券、保険、先物などあらゆる金融商品を包括的にカバーする視点がまず、法制の基本になければならない。だが、審議会はこの「基本ピース」を欠いている。
 さらに、販売・勧誘ルールは、本来、ルールが守られない場合の紛争処理手続き、補償体制と一体であるべきものだ。審議会がモデルとした英国の金融サービス法は、包括規定に加え、この三位一体のルール化を柱としている。今回のルール案は実行ある裁判外紛争処理などの方向性は「答申時に示す」として先送りし、販売ルールだけを小出しにした格好である。
 審議会の蝋山昌一部会長は、「これだけでも精いっぱい。これ以上の戦線拡大は得策ではない」と正直に述べた。他省庁に及ぶ各業法との調整のほか、国が販売・勧誘主体である一方で、投資信託などのリスク商品の販売にも意欲的な郵便局などの「いびつなピース」をどう扱うかという難問があるからだ。
 ただ、専門家集団の審議会が「(郵貯問題などは)政治状況を考えれば、やや後退せざるを得ない」(蝋山部会長)と政治調整を先読みし、肥大化する「国営金融商品」が21世紀ルールの対象に本当にふさわしいかの判断を放棄するのはどうか。
 足りないピース、いびつなピースだけでなく、専門家としての「直言ピース」も欠くとすれば、パズルの絵は輪郭もおぼつかなくなる。
(編集委員・藤井良広)