平成12年5月2日 日本経済新聞(朝刊)
【社説2】 金融販売法の手直し成立を
金融商品を販売する際、顧客への説明義務などを定めた金融商品販売法案が、参院を通過した。連休明けから衆院での審議が始まる。金融ビッグバン(制度改革)で新商品や新規業者が次々と登場する中で、遅れていた顧客保護を図るのがこの法律の狙いである。法案は肝心なところに穴が開いている。国会審議で穴を埋め、早期成立を図ってほしい。
この法案は、(1)金融商品の販売業者に重要事項の説明義務を課し、違反したら損害賠償の責任を負わせる(2)販売業者は顧客の勧誘方針を定めて公表し、勧誘行為の適正化を図る――などが主な内容となっている。金融市場の健全な発展には、市場参加者の自己責任原則を明確にし、それぞれの創意工夫が生きる環境を整えることが不可欠だ。それには規制を思い切ってなくし、紛争が起きれば事後的に迅速・公正に解決する仕組みを作る一方、リスクを取る前提として顧客に十分な情報を与える必要がある。そのかなめとなるのが、販売業者の説明義務である。
これまでも判例で、販売業者に重要事項の説明義務があるとして損害賠償責任が認められてきた。それを法律で明確にする意味は大きい。
問題は、対象商品が限られ、説明義務の範囲も狭いことである。この法律が適用される金融商品には、通産・農水両省が所管する商品先物取引が入っていない。ビッグバンの意義は、従来の業界ごとの縦割り規制をやめ、すべての金融商品に横断的なルールをかぶせることにある。証券先物と同じように、商品先物も金融商品である。顧客保護の観点からも、トラブルの多い商品先物を除いたら効果は半減する。金融審議会の蝋山昌一部会長が苦言を呈したように、役所の縄張り争いで落ちたのならビッグバンの精神に逆行する。
デリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ複雑な商品も登場する。商品の仕組みや欠損の程度なども説明義務の内容とすべきだ。変額保険の裁判では、取引を勧めた銀行の責任を認める判決も出ている。提携・共同した金融機関の責任を問う方法も検討してほしい。顧客の知識・経験・財産状況に比べ不適切な勧誘やリスクの高い商品の無差別な電話・訪問勧誘の規制も考えてほしい。