中間整理(第二次)
1.はじめに
(1) わが国金融に期待される主要な課題は多様化している。これまでは企業への円滑かつ低廉な資金融通がもっぱら中心課題であったが、経済のストック化や高齢化社会への移行に伴い、国民の金融資産の有利な運用が求められるようになっている。また、経済の成熟化により、積極的なリスクテイクを伴う新規産業への円滑な資金供給も重要な課題となっている。さらに、通信技術の発展や経済のグローバル化により、金融取引のあり方は大きく変化しており、多様化しつつある課題にこたえるには国民の市場への信頼確保が不可避となっている。そのため、金融サービスの利用者保護の環境を早急に整備しなければならない。今般の金融システム改革により、これらの課題への対応には大きな進展がみられた。しかし、なお現行法制は、各金融商品毎の縦割り規制となっており、業法の枠組みを越えた新しい商品・サービスの提供や、業態を越えた競争が阻害される可能性がある。また、業者に対する規制が中心で、利用者の私法上の救済も不十分と考えられる。
(2) こうした問題を解決するため、当部会では、21 世紀を展望した新しい金融のルールの枠組みについて、金融取引を幅広く対象とし、縦割り規制から機能別規制に転換するとともに、ルール違反には行政上の規制に止まらず、民事上の責任も追及される仕組み(いわゆる「日本版金融サービス法」)の整備を念頭に検討を進めてきた。
具体的には、@投資者から資金を集め市場で専門家が管理・運用する、いわゆる集団投資スキームについて、現在、金融商品毎の法制はあるものの、より幅広い資産を対象に、包括的、一般的なあるべきルールを検討し、また、A金融サービスの利用者の保護を図るために、今後予想される多様な金融商品の登場等にも備える、横断的な販売・勧誘についてのルールを検討することを目的に、それぞれワーキング・グループを設けて、精力的に検討を行った。
当部会は、本年7 月6 日には、それまでの審議における論点を中間的に整理した「中間整理(第一次)」を公表し、パブリックコメントを求めた。これに対しては、各界各層から多数の貴重なご意見が寄せられた。その内容をみると、業者・利用者等、それぞれの立場から様々な主張はあるものの、当部会の議論の基本的方向性については支持が得られたものと考える。(3) 当部会は、これらの「中間整理(第一次)」に対して寄せられた意見をも踏まえ、21 世紀を展望した金融サービスのあり方とルールの枠組みについて引き続き検討を行い、来年6 月を目途に最終報告のとりまとめを行うこととしている。同時に、パブリックコメント等でも見られるように、今後の金融サービスのルールの枠組みについて早期法制化への期待が高いことも踏まえ、「中間整理(第一次)」で示された二大テーマである、集団投資スキーム及び販売・勧誘のルールについて、最終報告のとりまとめに先駆け、いわゆる「日本版金融サービス法」の第一歩として当面可能な法制化の検討を行ってきた。
(4) この「中間整理(第二次)」は、こうした視点より進めてきた本年9 月から12月までの当部会の検討結果をとりまとめたものである。
また、この間、集団投資スキームに関するワーキング・グループ、及びホールセール・リーテイルに関するワーキング・グループにおいて、それぞれ早期の法制化に向けた専門的・技術的な検討を行った。以下の記述(2 .及び3 .)の背景となる考え方の詳細については、それぞれのワーキング・グループ報告(別添)に示されている通りであり、同報告は当部会にも報告され、基本的に了承されたものである。2.集団投資スキームの整備について
多数の投資者から資金を集めて市場で専門家が管理・運用する、いわゆる集団投資スキームについての当面の対応としては、
@ 資産流動化型スキームについて、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(以下、「SPC 法」という。)」を改正し、投資者保護に配意しつつ法制の簡素・合理化を図ることにより使い勝手のよい制度に改めるとともに、流動化対象資産を拡大し流動化の器として信託も利用可能とすることにより幅広く利用できる法制とする、
A 資産運用型スキームについて、「証券投資信託及び証券投資法人に関する法律(以下、「投信法」という。)」を改正し、不動産を含めた幅広い資産に投資運用が可能となるよう横断的な法制とする、
ことが適当である。
以上2つの法改正のより具体的な内容は以下の通りである。(1) 資産流動化型スキーム(SPC 法の改正について)
資産流動化型スキームは、特定の資産を企業本体から切り離し、そのキャッシュフローや資産価値を裏付けとして投資者に証券等を発行することにより流動化を図るという、資金調達のための仕組みである。そのひとつの制度であるSPC 法は、指名金銭債権及び不動産等を特定目的会社(以下、「SPC 」という。)を利用して流動化するものであり、特定資産を投資者の唯一の拠り所とする資産流動化の特質を踏まえてスキームの変動防止などの投資者保護の枠組みを定める一方、流動化の器としてのSPC 自体は簡素な組織になるように制度化されている。SPC 法については、資産流動化型スキームという現行法の基本的性格を維持しつつ、以下の方向で法制の簡素・合理化を図り、より使い勝手の良い制度とす
ることが適当である。
@ SPC の最低資本金制度を見直し、最低資本金水準を引き下げる。
A SPC の発行する証券の商品性を改善する。(優先出資の途中減資を可能とする、優先出資の無議決権化を図る、転換特定社債・新優先出資引受権付特定社債の発行を可能とする等)
B 借入金制限の緩和(特定資産取得のための借入れを可能とする。)
C 資産流動化計画に関する規制の簡素・合理化(定款記載事項から除外する、反対者の買取請求権を前提とした特別多数決による変更を可能とする等)
D 特定社員の影響力の制限(特定出資に関する特別の管理信託の導入等)
E SPC の登録制から届出制への移行
また、流動化対象資産を幅広く拡大するとともに、流動化の器として信託も利用できるようにし、柔軟な法制とする。(2) 資産運用型スキーム(投信法の改正について)
資産運用型スキームは、投資者から集めた資金を合同して専門家が各種資産に投資運用し、その利益を投資者に配分するものであり、資金運用という金融サービスを提供するための仕組みである。
その代表的な制度である投信法は、有価証券の発行により広く一般投資者から資金を集め、これを、信託又は投資法人という器を利用して、主として有価証券に投資運用するための法律であり、利益相反や運用リスク等に対して投資者保護を図る観点から、投資運用業務を担当する会社の適格性確保等のための兼業制限や認可制による検査監督、利益相反による弊害防止のための情報開示、一定事項の禁止、投資者や外部の第三者によるガバナンスの確保等を定めている。
横断性と自由度の高い法制の整備により金融のイノベーションを促進し、多様な金融商品の開発が可能となるよう、投信法の「主として有価証券に対する投資として運用する」という規定を改正し、不動産を含め幅広く投資運用できるようにするとともに、信託を利用したスキームについては外部の運用会社が運用指図する仕組みに加え、受託者たる信託銀行自らが運用する仕組みも整備する。
同時に、これによって生み出される新しい金融商品が我が国金融市場に定着し発展していくためには、透明性・公正性の高い仕組みとして広く一般投資者に受け入れられることが不可欠である。とりわけ、資産運用型スキームの投資証券の信頼性はひとえに運用会社にかかっているといっても過言ではない。それ故、投資運用対象資産の拡大等に伴う法制整備に当たっては、内外の歴史の教訓を踏まえ、現行法を基本とした上で、運用会社のあり方をはじめとする投資者保護のための枠組みの、整備・改善を図ることが必要である。
なお、その際、投資者保護の実効性やスキームの円滑な運営が確保されるよう、すべての資産に共通するルールをただ形式的に規定するのではなく、対象資産の特性や取引市場、取引慣行を踏まえた対応にも留意しなければならない。
このように整備される資産流動化型と資産運用型の集団投資スキームが円滑に機能するためには、税制上の措置が必要と考えられることから、所要の措置が取られるよう要望する。
以上のような不動産を含む幅広い資産をその対象とする資産流動化型及び資産運用型スキームの整備は、「中間整理(第一次)」における集団投資スキームの基本的考え方に沿ったものである。3.金融商品の販売・勧誘ルールの整備について
金融商品の販売・勧誘ルールについて、販売業者の説明義務の明確化と説明義務違反に対する民事上の効果、不適切な勧誘の取扱い等を中心に、当面の対応の検討を行った。
(1) 説明義務を明確化する意義等について
金融商品の取引内容を一般投資家が理解し、円滑に取引が行われるためには、適切な情報提供が不可欠である。同時に、一般投資家は業者に比べ情報が乏しく、業者から提供される情報を信頼し、またそれに相当強く依存せざるを得ない。
金融商品の販売に際して、業者が一定の重要な情報を提供する説明義務を負うことは判例においても広く認められている。業者の説明義務は、金融技術の革新、金融サービスの多様化が進展するなかで、今後、ますます重要になると考えられ、これを金融商品の販売業者に共通する基本的な義務として制度化し、これに違反した場合の損害賠償責任が生じる要件等を明確にすることが必要である。
これにより、リスクを伴う金融商品に対しても顧客が納得して投資を行える環境が整備され、その結果、金融サービスに対する信頼が確保され、取引の円滑化に資するものと考えられる。(2) 説明義務の基本的な構成
@ 金融商品の範囲
説明義務の対象となる金融商品については、個別の業法が整備されているかどうかにかかわらず、概念的には広く捉え、金融イノベーションの進展に伴う新たな金融商品の登場にも対応できるようにしていくべきものである。しかし、何が金融商品であるかについては様々な見方があり、金融商品の範囲を明確に画せる具体的かつ包括的な定義を置き、それに基づき、違反行為への損害賠償責任をも含んだ説明義務に関する包括的な法体系を導入することは、現状では困難ではないかと考えられる。したがって、一般的に定義を行うことについては、将来の検討課題と考えられる。
今般の販売・勧誘ルール、特に説明義務の対象となる金融商品の範囲を定めていく場合においては、「中間整理(第一次)」で示されたメルクマールや考え方に沿いつつ、基本的には各法に定義されている有価証券、預金、保険、信託商品、
抵当証券、集団投資スキームに関する商品、金融先物・オプション取引等について、取引の実態やルール適用の目的等に照らして列挙した上で、同様の機能や類似するものをも含み得る規定振りを工夫し、具体的には政令により指定するといった方法で対応することが考えられる。
A 販売業者、販売行為
販売業者の範囲については、業法上の権限があるかどうかにかかわらず、対象金融商品の販売行為を業として行う者が広く対象として含まれるようにすることが適当である。また、販売行為については、契約の締結の代理、媒介等を行う場合も含むべきである。
B 説明の方法、説明内容等
説明を義務付けるべき事項は、顧客のリスク判断にとって重要な事項とすべきである。この場合のリスクとは、将来「不利益な状態」が生じる可能性をいうものと考えられ、重要事項の説明内容としては、商品の基本的な性格、仕組みにリスクが内在するときには、そのリスクをもたらす主要な要因に則して説明することが適当である。
商品の特徴、仕組み等について「明確性あるいは周知性が高い」商品については、特に政令等で特定して、説明事項を限定することも検討する必要があろう。
商品毎の説明事項の具体的な内容及び説明の方法については、業界団体等においても、ガイドライン等の作成・公表に向けた検討を行うとともに、社内規程の整備にも反映させることが望ましい。
C 説明を不要とする場合
本制度の説明義務は、いわゆるプロが顧客である場合には課す必要はないと考えられる。
プロの範囲等については、証券取引法の適格機関投資家の制度等を参考にして検討することが適当である。
また、顧客が説明を不要とした場合にも、説明義務を課す必要はないと考えられる。(3) 説明義務違反の民事上の効果
基本的には、これまでの判例等を踏まえ、民法の不法行為責任に則し、説明義務に違反した者に対しては、損害賠償責任が問われるべきであると考えられる。
ただし、損害賠償責任を負う者については、販売業者が直接に責任を負う構成を検討すべきである。
また、複数の業者が共同して販売行為を行った場合の責任のあり方等について、更に検討が必要である。(4) 不適切な勧誘等について
@ 以上の説明義務の明確化に加え、販売業者の不適切な勧誘等への対応として、以下の点について検討を行った。
(イ) 詐欺的な勧誘等の取扱い(消費者契約法(仮称)との関係)
金融商品に係る紛争は、一般に、本制度のような説明義務違反に伴う損害賠償により処理されることが多い。だが、金融商品の販売において消費者契約法の適用を排除しなければならない理由は特にないと考えられることから、詐欺的な勧誘等については消費者契約法がそのまま適用されることが適当である。
(ロ) 適合性の原則、不招請の勧誘
適合性原則は、販売業者が勧誘活動において自ら実践することが求められる重要な事項である。この点については、リスクの高い商品を取り扱う際の電話、訪問による勧誘への対応等と合わせて、販売業者のコンプライアンス(業者の内部管理)体制の整備が必要と考えられる。
(ハ) 販売業者に対するコンプライアンス規程の義務付け
販売業者による適切な勧誘を確保していくためには、行政の監督だけではなく、業者自身の自主的な対応が極めて重要である。
このような業者側の対応を促すために、顧客に対する説明の内容や方法とともに、適合性原則の実施や不適切な勧誘の自制等の、勧誘時の適切な対応に関する社内規程を整備し、その遵守を義務付けるだけでなく、勧誘に関する各業者の基本的な方針について何らかのかたちでの公表等を義務付けることを検討すべきである。
A このような方策により、適切な勧誘の実現のための販売業者のコンプライアンス体制が整備されれば、金融商品の販売時に説明義務が遵守・履行されることとあいまって、金融商品の販売・勧誘における顧客保護はより一層強化され、金融サービスに対する信頼確保と取引の円滑化に資するものと考えられる。
なお、金融商品の不適切な勧誘行為に対する更なる対応等については、最終報告に向け、引き続き検討する。また、広告に関するルールについて検討すべきとの指摘があった。4 .裁判外紛争処理制度の整備等と消費者教育の充実について
(1) 裁判外紛争処理制度の整備等
金融取引に伴う利用者の損害を救済する最後の拠り所は司法的な解決である。
しかし、一般の利用者にとって、これは時間や費用等の面で必ずしも使い勝手がよくない。それ故、中立かつ公平で簡易・迅速な苦情処理や裁判外紛争処理制度の整備等を図り、ルールの実効性を確保することが重要と考えられる。
こうした観点から当部会で検討を行うなか、本年10 月以降、銀行の業界団体が、苦情・紛争処理において中立性・公平性を確保するため、東京の弁護士会仲裁センターと提携を開始した。今後、既存の業界団体等における自主的な取組みが更に進展することを期待したい。
当部会としては、本問題について、最終報告のとりまとめに向けて更に検討を深めていくこととしたい。(2) 消費者教育の充実
消費者教育のあり方についても、「中間整理(第一次)」を踏まえて、検討を行った。業者・業界、消費者団体、行政当局、教育機関等のそれぞれにおける積極的な取組みが重要であるが、まずは行政当局による努力を期待したい。
また、当部会では、消費者教育の重要性を踏まえ、最終報告に向け更に検討を続けることとしたい。5 .終わりに
(1) 「中間整理(第一次)」の公表後、早期法制化に向けて精力的に検討を行い、 この「中間整理(第二次)」では、@集団投資スキームについて、不動産を含む幅広い資産をその対象とする資産流動化型及び資産運用型スキームの整備、及び、A販売業者の説明義務の明確化を中心とした金融商品の販売・勧誘ルールの整備について、議論のとりまとめを行った。これらは、当部会が検討を進めている、いわゆる「日本版金融サービス法」の重要な枠組みを構成するものであり、今後の行政当局における実務的な検討を経て、その実現を期待したい。
(2) また、当部会では、9 月に証券決済システムの改革に関するワーキング・グループを、さらに11 月には証券取引所の組織形態の在り方等に関するワーキング・グループを設置し、21 世紀の我が国証券市場を支えるインフラの整備についての検討を開始することとした。
なお、政府において検討が進められている有価証券報告書等の開示書類の電子化は、投資家等の企業情報への容易かつ迅速なアクセスを可能とすること等を通じて、証券市場の活性化、効率化等に資するものと考えられ、その実現のため早期の法制化を期待する。(3) この「中間整理(第二次)」により、いわゆる「日本版金融サービス法」の実現に向けた具体的な第一歩が踏み出されることとなるが、公正かつ効率的な金融システムを確立するための、理想とする法制度への道のりは決して平坦なものではない。
今後、当部会としては、最近における欧米諸国の金融法制の更なる改革への動きも踏まえつつ、21 世紀の日本を展望し、最終報告におけるとりまとめに向け全力で取り組むことにより、新しいルールの枠組みへの道筋をより確かなものとしていくこととしたい。