金融商品の販売・勧誘ルールの整備について
(平成11年12月7日)
(ホールセール・リーテイルに関するワーキンググループ報告)当ワーキンググループは、第一部会の委託を受け、金融商品の販売・勧誘ルールについて、当面の法制化に向けた検討を行うため、11月以降6回の会合を集中的に開催し、販売業者の説明義務の明確化と説明義務違反に対する民事上の効果、不適切な勧誘の取扱い等を中心に審議を行った。審議内容は各般にわたっており、論点整理の詳細は別紙に記載するが、法制整備の基本的方向は以下のとおりである。
1.説明義務を明確化する意義等について
@ 金融商品の取引内容を一般投資家が理解し、円滑に取引が行われるためには、適切な情報提供が不可欠である。同時に、一般投資家は業者に比べ情報格差があり、業者から提供される情報を信頼し、またそれに相当強く依存せざるを得ない状況にある。A 金融商品の販売に際して、業者側が一定の重要な情報を提供する説明義務を負うことは判例においても広く認められているが、今後、金融技術の革新、金融サービスの多様化が進展するなかで、説明義務はますます重要になると考えられ、これを金融商品の販売業者に共通する基本的な義務として制度化し、これに違反した場合の損害賠償責任が生じる要件等を明確にすることが必要であると考えられる。
B これにより、リスクを伴う金融商品に対しても顧客が納得して投資を行える環境が整備され、その結果金融サービスに対する信頼が確保され取引の円滑化にも資するものと考えられる。
2.説明義務の基本的な構成
(1) 金融商品の範囲
@ 説明義務の対象となる金融商品については、個別の業法が整備されているかどうかにかかわらず、概念的には広く捉え、金融イノベーションの進展に伴う新たな金融商品の登場にも対応できるようにしていくべきものであるが、何が金融商品であるかについては様々な見方があり、金融商品の範囲を明確に画せる包括的な定義を置くことは困難ではないかと考えられる。A 従って、販売・勧誘ルール、特に説明義務の対象となる金融商品の範囲を定めていく場合においては、中間整理(第一次)で示されたメルクマールや考え方に沿いつつ、基本的には各法に定義されている有価証券、預金、保険、信託商品、抵当証券、集団投資スキームに関する商品、金融先物・オプション取引等について、取引の実態やルール適用の目的等に照らして列挙した上で、同様の機能や類似するものをも含み得る規定振りを工夫し、具体的には政令により指定するといった方法で対応することが考えられる。
(2) 販売業者、販売行為
販売業者の範囲については、業法上の権限があるかどうかにかかわらず、対象金融商品の販売行為を業として行う者が広く対象として含まれるようにすることが適当と考えられる。また、販売行為については、契約の締結の代理、媒介等を行う場合も含むべきと考えられる。(3) 説明の方法、説明内容等
@ 説明を義務付けるべき事項は、顧客のリスク判断にとって重要な事項とすべきである。
この場合のリスクとは、将来「不利益な状態」が生じる可能性をいうものと考えられ、重要事項の説明内容としては、商品の基本的な性格、仕組みにリスクが内在するときには、そのリスクをもたらす主要な要因に則して説明することが適当である。A 商品の特徴、仕組み等について「明確性あるいは周知性が高い」商品については、特に政令等で特定して説明事項を限定することも検討する必要がある。
B 商品毎の説明事項の具体的な内容及び説明の方法については、業界団体等においても、ガイドライン等の作成・公表に向けた検討を行うとともに、社内規程の整備にも反映させることが望ましい。
(4) 説明を不要とする場合
本制度の説明義務は、いわゆるプロが顧客である場合には課す必要はないと考えられる。
プロについては、証券取引法の適格機関投資家の制度等を参考にして、その範囲等を検討する必要がある。
また、顧客が説明を不要とした場合にも説明義務を課す必要はないと考えられる。3.説明義務違反の民事上の効果
基本的には、これまでの判例等を踏まえ、民法の不法行為責任に則し、説明義務に違反した者に対しては、損害賠償責任が問われるべきであると考えられる。ただし、損害賠償責任を負う者については、販売業者が直接に責任を負う構成を検討すべきである。
また、複数の業者が共同して販売行為を行った場合の責任のあり方等について、更に検討が必要である。4.不適切な勧誘等について
(1) 以上の説明義務の明確化に加え、販売業者の不適切な勧誘等への対応として、以下の点について検討を行った。@ 詐欺的な勧誘等の取扱い(消費者契約法(仮称)との関係)
金融商品に係る紛争は、一般に、本制度のような説明義務違反に伴う損害賠償により処理されることが多いが、金融商品の販売において消費者契約法の適用を排除しなければならない理由は特にないと考えられることから、詐欺的な勧誘等については消費者契約法(仮称)がそのまま適用されるものと考えられる。A 適合性の原則、不招請の勧誘
適合性原則は、販売業者が勧誘活動において自ら実践することが求められる重要な事項である。この点については、リスクの高い商品を取扱う際の電話、訪問による勧誘への対応等と合わせて、販売業者のコンプライアンス(業者の内部管理)体制の整備が必要と考えられる。B 販売業者に対するコンプライアンス規程の義務付け
販売業者による適切な勧誘を確保していくためには、行政の監督だけではなく、業者自身の自主的な対応が極めて重要であると考えられる。
このような業者側の対応を促すために、顧客に対する説明の内容や方法とともに、適合性原則の実施や不適切な勧誘の自制等の、勧誘時の適切な対応に関する社内規程を整備し、その遵守を義務付けるとともに、勧誘に関する各業者の基本的な方針については何らかのかたちで公表等を義務付けることを検討すべきである。(2) このような方策により、適切な勧誘の実施のための販売業者側のコンプライアンス体制の整備が促されることは、金融商品の販売時に説明義務が遵守・履行されるようになることとあいまって、金融商品の販売・勧誘における顧客保護をより一層強化し、その結果金融サービスに対する信頼確保と取引の円滑化に資するものと考えられる。
(以 上)