第26回全国証券問題研究会

個人投資家の市場への参加条件 (全国証券問題研究会の提案)



1、いま、日本の経済は、中国、韓国など近隣諸国の繁栄をみながら、停滞している。アジアの病人といわれている。株式市場の低迷とあいまって国民にリスクテイクがいわれて久しい。銀行のペイオフ制度が始まっても、個人投資家の資金は依然として証券市場に流れていない。証券市場にそれだけの魅力がないからである。


2、しかしマーケットが顧客本位の立場にたって良質の金融商品を提供すれば、投資家は頻繁な電話勧誘を受けなくても、あれこれの資料を送られなくても、市場にこぞって参加するであろう。いま、求められているものは市場の信頼の回復である。だが、目先のことばかりおもんばかり、証券取引の基本を忘れて顧客を呼び込もうとしても、市場は見向きもされないであろう。


3、個人投資家の信頼を回復して市場参加のためには、以下のことが必要である。
 @ 証券市場は国民経済の骨格をなすものであるから、絶対に「博打場」のようなものであってならない。証券取引等監視委員会の充実をふくめ、法は厳格に執行されなければならない。これは証券取引法が詐欺禁止規定をおき、最高裁判所の大法廷判決も市場の公平性、公正性を説いていることから明らかである。
 A 市場を預かる証券業界の関係者には高い使命感と倫理観が求められる。もし、関係者が不公正取引や証券詐欺にかかわるようなことがあったら、徹底的に究明して市場から追放すべきである。自浄能力のあることを公開すべきである。例えば最近、EB債のボーナスに関して不公正な行為が報告されているが、このような人たちは市場から退場させるべきである。
 B 防衛力のない投資家に対し、情報の徹底的ディスクローズはもとより、金融商品のリスクを説明しなければならない。先年、社債の発行会社は個人投資家から集めた資金を銀行借入に返済してデフォルトとなったが(マイカル債)、このようなことでは市場に近づくことすら危険である。販売証券会社の責任は大きい。リスクを強調し余計な説明をすると商品が売れなくなる、聞かれない限りあまり説明しない、ということは証券取引の上では詐欺である。
 C 防衛力のない投資家の違法取引による被害は完全に回復されなければならない。なぜなら市場は「博打場」ではないから市場を汚す欺瞞行為に対し投資家に責任はないし、違法者に利得を許してはならないからである。これに関連して過去の裁判例は、証券販売員に違法行為を認めながら投資者側に大きな過失相殺を加えるものが多いが、市場に参加したこと自体は歓迎されなければならない。誤った自己責任原則は是正される必要がある。


4、当会は、ここ広島で二日にわたり個人投資家の市場問題と過失相殺をテーマに研究会をもった。証券市場の信頼回復には、ペイオフ解禁や401Kとかで色めきたつことでなく、取引の基本をしっかりと整えることである。市場への参加者の層が厚く健全な投資家が多くなれば、株価操作や欺瞞的取引はやりにくいものになろう。健全な市場には、普通の人の参加が必要である。「急がば回れ」である。

 よって、以上提案する。

       2002年6月1日    広島にて
 
                   全国証券問題研究会  代表幹事  弁護士 田 中 清 治