「社債格付けと信用リスク」

                                  株式会社三國事務所 児玉万里子
                                  2000年4月14日   全国証券問題研究会

[T] 元利支払能力の測定と信用リスク


1 「信用リスク」の定義=負債の元本と金利を約定通りに支払えるかどうかというリスク
(1)債務不履行に陥る可能性
(2)債務不履行に陥る可能性を反映して、(現実に債務不履行に縮らなくとも)有価証券の価格が下がる可能性
 類語の「倒産リスク」は(1)の意に焦点を当てている


2 日本の大企業・産業の置かれている位置の変化
(1)欧米へのキャッチアップの終了とともに、経済は高度成長から低成長へと移行している
(2)投資が成功するかどうかは、市湯に委ねられることになる。重要産業・主要企業の保護・育成のために、成功を予め約すことはすでにできない
(3)企業は収益によって投資を回収できない限り、負債を返済できない。負債の返済にリスクが発生

3 信用リスクの社会化の終了
(1)信用リスクの社会化段階から個別化段階へ移行した
・信用リスクの社会化段階=「メインバンクは大企業を潰さず、国は銀行を潰さない」
 つまり「国は銀行・大企業を潰さない」ことから、個別的に信用リスクを問う必要はなく、信用リスクは事実上無いに等しかった
・信用リスクの個別化段階=国が銀行・大企業の全てを助けきるのは、もはや無理である。個々の企業が、負債の元利を支払えるかどうかは、市場へ委ねるしかない
(2)大企業も潰れる時代
・公開大企業の倒産の頻発、銀行破綻の発生、社債発行企業の倒産・破綻の増大
・デフォルト債の処理は受託銀行による買取肩代わりから、市場での投資家負担へ

4 信用リスクの判断
(1)潰れない企業の名前をあらかじめピックアップすることは不可能
(2)倒産する確率の違いによって、グループに分けることはできる
(3)格付けとは、白黒判断ではなく、グループ分けを意味している

5 財務諸表分析による信用リスクの測定
(1)過去の投資の回収ができているかどうかを財務諸表から読む
(2)財務内容の格差は広がっている
 自己資本比率の格差の拡大
 格付け別の自己資本比率の格差
(3)ディスクロージャーの意義が、日本でも確認され始めている
 財務緒表を市湯参加者に提示することで資金を調達するようになったとき、財務諸表の虚偽記載は、参加者をだましてお金を取ることであり、窃盗と同じことになる

6 信用リスクの格差と倒産発生
(1)信用リスクの格差によって、倒産発生率に格差が出る
 格付けランクごとの債務不履行の発生実績
(2)信用リスクと金利
 投資家や与信者が信用リスクによって限度金額枠に格差を付けることによって、調達資金の需給関係に格差が生まれ、金利に格差がでる
   日本では、まだ十分に格差がついているとは言いがたい

7 信用判断と投資判断は異なる

【U】格付けと格付け会社(添付論文『社債格付けと投資家の視点』)

1 格付けとは、元利が支払えなくなる可能性が高いか低いかを段階的に示したもの
・どのような事業環境を前提とするか−三國格付けでは最悪の事業環境が前提
・財務諸表の分析によって判断する
・元利支払能力の程度によって、簡単な符号で表記する
・ここでは、格付けランクの定義が重要である

2 格付けは、本来ひとつの意見である
(1)「ひとつの意見」を成り立たせるためには、情報において、格付けユーザーの投資家と格付け会社が、同じ土俵(優劣なし)に立っていることが必要
(2)社債発行の可否、投資をしてもよいかどうか、優良債権か不良債権かの区別などにおいて、格付け使用が行政上義務付けられると、「ひとつの意見」にはなりにくい

3 格付けは、ユニバースの提示である
・多数の銘柄に投資先を分散させて投資する機関投資家が主に使用する
・段階的になっているランク符号のシステムは、確率の違いを示しており、ポートフオリオの分散を図るときに使いやすいからである

4 個人投資家の格付け利用
・本格的な分散投資ではくとも、運用先の選択が個人投資家にもありうる以上、格付けが役立つ
・機関投資家が活用するということに対する反射効果

5 格付けは信用リスク以外に、回収リスクも取り込むか
・会社が倒産した後の負債の弁済順位によって、回収可能性が異なるなら、格付けランクが低い時には、弁済順位の違いによる回収リスクも織り込む方が現実的である。

6 日本の社債発行規制と格付け
・適債基準の役割一格付け基準への移行
・大蔵省の指定格付けの役割
・「投資適格」ランクの意味づけ

7 格付け会社の経営
・米国での設立、成長、位置付け
・コスト角担ー起債者か、それとも投資家か
・情報の入手ー「公表情報に限るか、内部情報をも使うか
・政府の規制、指導、保護育成との関係
・日本における格付けの開始と定着
・日本の格付け会社
・三國格付けの特色