債務不履行か不法行為か
             〜忠実義務違反について〜    
2000.2.12  東京・渡辺征二郎弁護士

※「債務不履行構成のメリットの有無」との関係で、ご意見、ご示唆をいただいたものです。


 田端先生のいう債務不履行の中に忠実義務違反が含まれているのならば債務不履行説の方が基本的に正しいと思います。
 民事責任の発生事由としては不法行為、債務不履行の二つの他に忠実義務違反(信任義務違反)があります。
特に過当取引について言えば、過当な勧誘をしないという契約上の義務は本来存在しないのであって(無断売買でも同様に勝手に売買しませんという事前の合意があるわけではない)、過当取引の本質は顧客の利益よりもブローカーの利益を優先するというところに核心があり、それはまさに忠実義務の問題です。
 我国では忠実義務という観念が定着していないため(問屋については古くから認められているにもかかわらず)、この種事件が不自然な法律論で処理されていると考えます。
 忠実義務は債務不履行と別個の責任論で、それ自体で独立の民事責任発生事由です。
 賠償責任が認められるためには忠実義務違反の認定がなされればそれで十分で、忠実義務に違反し、あるいは信任義務に違反し不法行為を構成するなどと判示する判例は誤っていると思います。
 また、忠実義務に違反するような行為は不法行為でもあることは確かですが、忠実義務違反は本質的に過失相殺の観念を容れる余地がないと考えられ、これは故意による不法行為に匹敵するものと考えられます。
 我国の不法行為は故意と過失を区別していないので、不法行為の構成は立証面で一見原告に有利なようにあります。しかし、証券の勧誘の場合は将来の見通しという面を含んでおり、将来の見通しは誤り易いことから基本的に過失による民事責任を認めることは適当ではないと考えます。
 従って、債務不履行か、不法行為かという議論ではなく、忠実義務を正面から認めさせるにはどうすべきかという議論が必要だというのが私の意見です。
 田端先生が債務不履行という構成にかけた期待は忠実義務の観念によって実現するのではないでしょうか。
 債務不履行か不法行為かという問題は古くから論じられていますが、条文にないためか、忠実義務という責任論が日本に定着していないことが一番の問題であると思っています。これから投資信託や投資顧問の問題が出てくると思いますが、忠実義務という責任論がないと適切な解決ができないのではないかと思います。債務不履行に契約締結上の過失論や保護義務も含めて考えるというのも忠実義務の観念が未発達であるためという面があるのではないでしょうか。