遅延損害金の起算点            2000.1.28  大阪・田端聡弁護士


※日弁手引の原稿執筆の過程で気付いたことを書き殴っただけです。詳しくは近い将来発行される手引をどうぞ。

 遅延損害金につき、購入代金支出時を起算点であるとする裁判例はさほど目立たない気がします。しかし、よく調べてみると、実はこれは、そもそも提訴時から損害確定時ないし訴状送達の翌日を遅延損害金の起算点として請求が行われているケースがかなりあるためです。恥ずかしながら実は私もそうで、購入後の行為を含めた一連一体の違法を強調することが多かったことから、そうではない事案でも損害確定時を遅延損害金の起算点とするという癖がついていました。
 ところが、支出時を起算点とする請求が行われたケースにおける高裁レベルでの判断を見ると、以下のとおり見解は分かれており、どちらかと言うと支出時説が有利かとも言える状態にあります(但し、以下には挙げていませんが、一審で支出時からの請求が否定されて損害確定時からとされ、投資家側からの控訴がなかったため控訴審でもそのままとなったケースも少なくありません)。なお、以下の判例の内容を見ても、支出時か損害確定時かを分かつメルクマールは全く見当たらず、この点が上告審で争われたケースも見当たらない状況です。
 当該違法勧誘がなければ、あるいは注意義務が履行されていれば当該取引は行われていなかったとされればこそ、不法行為が認められることを考えれば、支出時からの遅延損害金を肯定する立場の方がより実態に合致し、投資者保護に資することは明らかです。支出時説をとると時効の点などで不利になるとの意見もありますが、これはあくまで「損害及び加害者」を知ったときの解釈の問題で解決されるべき事柄でしょう。
 だとすれば、投資者側代理人としては、購入後の違法行為を不可欠の要素として主張する場合など、特段の事情がない限り、常に支出時(複数の取引を対象とする場合は最後の支出時)からの遅延損害金を請求しておくべきことになります。通常、賠償額が1割〜2割程度変わってくることが多いのですから無視できない問題であり、請求できる余地があるのにしないとなれば、これは弁護過誤にさえ繋がる問題かもしれません。
 因みに、下記判例を調べていて、あの山一仕手戦逆転勝訴以来、大阪の山崎さんが取得された判決に支出時からの損害金が認められたケースが多いのが目立ちました(全面勝訴となった最新の大阪地裁11.12.15でも支出時からの損害金が認められています)。見習わないといけません。
 皆さん、可能な限り支出時からの損害金を請求するようにしましょう。


  @ 支出時からの遅延損害金が認められたケース
        大阪高裁平成6年2月18日判決(断定的判断の提供)
        名古屋高裁平成7年3月31日判決(利回保証約束による勧誘)
        大阪高裁平成9年1月28日判決(説明義務違反)
        東京高裁平成9年5月22日判決(断定的判断の提供)
        大阪高裁平成9年6月24日判決(適合性原則違反、説明義務違反)
        大阪高裁平成9年7月31日判決(説明義務違反)
        大阪高裁平成9年12月24日判決(説明義務違反)
        広島高裁平成10年3月27日判決(説明義務違反)
        東京高裁平成10年12月10日判決(説明義務違反)
        東京高裁平成11年10月28日判決(説明義務違反)
        名古屋高裁平成12年2月23日判決(説明義務違反)

 A 支出時からの請求が否定され、損害確定時が起算点とされたケース
        大阪高裁平成7年4月20日判決(説明義務違反)
        広島高裁岡山支部平成8年5月31日判決(説明義務違反)
        広島高裁平成9年6月12日判決(説明義務違反)
        東京高裁平成9年7月10日判決(説明義務違反)
        大阪高裁平成9年8月6日判決(説明義務違反)
        大阪高裁平成9年10月23日判決(説明義務違反)
        名古屋高裁平成10年2月18日判決(利回保証約束による勧誘)

(以上の判決はすべてデータベースに登録されています)