過当取引と低リスクの窃盗罪の死 ― 過当取引における取引損の算定 ― Churning and the death of low risk Larceny: Calculating damages to redress the Churning client’s loss in portfolio value Michael F. J. Romano California Western Law Review vol.21,149 序 論    顧客が株式ブローカーにその裁量によって取引することを許すことでブローカーの助言と指導を得る場合、顧客とブローカーは忠実義務並びに契約的関係に立ち、ブローカーは顧客の経済的利益に沿うように取引を行うことを約し、顧客はブローカーに対して手数料を支払うことを約すことになる。このような関係の結果、しばしばブローカーは顧客を騙す立場に立つ。 チャーニング(過当取引)はブローカーが顧客の経済的必要性、資金の性格、口座の大きさによって正当化される以上の頻度で取引をするときに発生する詐欺的行為である。 ブローカーの詐欺的な意図を立証するために、顧客はブローカーが顧客の投資目的を無視して、彼自身のために手数料を生み出すことを意図していたことを立証しなければならない。 賠償を求める顧客は特に1934年証券取引所法に基づき訴えを提起する。 裁判所と学者はチャーニング事件における損害の算定で苦労している。 本稿はこの苦労を暖和せんとするものである。 本稿は第一に、チャーニングの要件並びに1934年証券取引所法の基礎をなす救済的、抑止的目的を論じ、第二に、同法の目的並びに顧客は通常チャーニングの結果としてより多くの損害を被るという事実にもかかわらず、裁判所が憶測の概念と適合性の原則に基づいて手数料の賠償に制限していることの理由について論じる。 最後に本稿は、顧客に損害賠償を認める場合の損害額の算定法について議論する。そして、全てのチャーニングのケースに適用される損害算定法を提唱するものである。 T.チャーニング(過当取引)  チャーニングによる損害の賠償を求めるため、顧客はブローカーが(1)口座を事実上支配していたか、一任口座であったこと(2)口座において過当に取引が行われたこと(3)顧客を騙す意図又は顧客の利益を故意的に無視して行動したことを立証しなければならない。 ブローカーが顧客の口座で過当に取引すれば顧客は少なくとも理論的にはブローカーの詐欺的行為と相当因果関係にある損害の賠償を受けることができる。しかし、裁判所はチャーニングによる実際の損害の算定問題につき苦労している。 判例は、同法に基づく訴えにおいては懲罰的賠償を認めることができないことを明らかに判示している。 又、顧客が実際に生じた損害以上のものを得ることができないことは同法の規定上明らかである。 しかし、判例はしばしば賠償額を準契約的回復の限度に制限している。 準契約は不当利得の原則に立脚しており、判例はブローカーの詐欺的行為から生じた利得を考慮する。 顧客への賠償は、チャーニング期間中に取得されたブローカーの手数料、税金、利子に限定される。 チャーニングの賠償を準契約的損害に制限することの問題は、チャーニングが通常、顧客がブローカーに支払った手数料をはるかに超える損害をもたらすことにある。 一般に顧客はチャーニングによって取引損を被る。 加えて、損害を準契約的損害に限定することはブローカーが他の顧客に対し過当取引を行うことを抑止できない。 それにもかかわらず、判例は賠償を準契約的損害に限定し続け、ブローカーの詐欺的行為と相当因果関係をもって生じる損害とは何かという論点を回避している。 訴えは10b及び10b-5に基づいて提起される。 これらの条項は、ブローカー・ディーラーが看板を出したときは黙示的に顧客の最大の投資利益に従って行動すると表示しているとする「看板理論」に由来する。 最高裁判所は同条項の目的がブローカーの詐欺的行為の結果として損害を被った顧客を救済し、そしてブローカーが将来そのような詐欺的行為を行うことを抑止することにあると判示している。 更に、判例は顧客・投資家の経済的利益を保護するために、同法はブローカーに対して柔軟に解釈されることが、立法目的から要請されると判示している。 しかし、同法は明示的に顧客は不服とされる行為から生じた実際の損害を超える額を回復することができないと規定している。 同法は顧客を救済し詐欺的なブローカーを抑止する必要性を明らかにしているが、証券詐欺のケースにおける損害額の計算方法については示唆するところがない。 特に、チャーニングの場合における損害の算定については困難である。 伝統的にチャーニング事件の顧客は、通常より大きな損害を被っておりながら、損害はブローカーに支払った手数料に限られている。 判例は次のような考え方によって損害を限定してきた。  (1)顧客の行為がブローカーの不法行為性を低下させる。  (2)準契約的損害を超える賠償は憶測的過ぎる。  (3)ブローカーが顧客の投資目的に適した証券を過当に取引したのだから手数料以上の回復はなされるべきでない。 かくて、同法の救済的並びに抑止的目的はチャーニングの場合には著しく無視されてきた。 A.顧客側の行為  判例は顧客がブローカーの支配と過当性、詐欺の意図を立証した場合においてさえ賠償額を制限してきた。 判例はブローカーの不法行為と顧客の教育、経歴、取引経験、取引の内容を明らかにした確認書の受取り、証券又は経済関係の高級な出版物の購読等とバランスを取ることで顧客の賠償を制限してきた。 判例によれば、もしブローカーがこれらの要素の一つの存在を立証することで、顧客が証券の知識を有していることを立証できれば、顧客に対する賠償は手数料、すなわち準契約的方法に限定されうる。 顧客はチャーニング期間中に被った取引損の賠償を認められない。 判例はそのような抗弁を禁反言、放棄、懈怠と呼んでいる。 チャーニングのケースにおいて、かかる抗弁を認めることの問題はブローカーがチャーニングを行ったにもかかわらず、顧客は完全な賠償を認められないことである。 顧客が市場についての知識を有しているために完全な賠償を否定することは、彼が騙されていることを知るべきであったということであり、その結果は厳しすぎる。 チャーニングはブローカーが意図的に顧客を騙す詐欺的行為であり、それは意図的な不法行為である。 過失相殺は意図的な不法行為に対しては適用されないという不法行為の原則が確立されている。 この原則はチャーニングのケースにおいても適用されるべきである。 ブローカーが口座を支配し、過当な取引を行い、騙す意図を有していたことを顧客が立証しうる限り、ブローカーは顧客の行為がチャーニングの請求原因の一つを否定するほどに無謀であったことを立証しない限り、全責任を免れることができないというべきである。 例えば、ある判例はブローカーによってなされた取引を顧客が同意していたかどうかという面から顧客の行為を検討し、もし顧客が取引に同意しておれば、即ブローカーは口座を支配していないし、過当取引でもなく、むしろ口座を回転することが顧客の意思であったとした。 要するに、顧客が自己の口座でブローカーが取引することに同意していたかどうかが、顧客がチャーニングで勝訴できるかどうかを決めることになる。 裁判所は顧客が証券の知識を有することを根拠にして、そもそも口座が過当取引されていることを知るべきであったというべきではない。 法は単にマーケットの通常の変動に基づいて損失を被った顧客、又は自らブローカーに過当な取引を要求した顧客を救済すべきではない。 しかし、法はブローカーが顧客に対し証券取引に熟達していると信用させて、顧客から十分な利益を得たブローカーに報酬を与えるべきでない。そうすることは同法の基礎にある抑圧的目的に反する。 更に、顧客が被った取引損のいかなる賠償をも認めないことはブローカーの不法行為に対する顧客の救済を怠ることになろう。にもかかわらず、判例は概ね顧客のマーケットに関する知識に基づき損害賠償を制限している。 判例は又憶測及び適合性という観点から顧客への賠償の制限を正当化している。 B.憶測(speculation)  判例はしばしばチャーニングの事件において損害を準契約的な損害に限定し、それより大きな損害は憶測的過ぎるとしている。 確かに、投資や市場の変動に伴う不確実性のため証券詐欺事件の損害額の算定は常に不正確なものとなっている。 問題は、何人も、もしブローカーが過当取引を行なわなかったら投資がどういう結果となったかについて確実に判定できないことにある。 裁判所は準契約的損害を算定することでチャーニングによって生じた損害が何であるかという判断を避けてきた。むしろ、裁判所はブローカーの不法行為による損害の算定が憶測的なものであるため、口座における全ての取引がブローカーの不正行為によるものと仮定した。 すなわち、ブローカーが行ったどの取引が詐欺的であったかということを詮索せず全ての手数料を顧客に返還する。 ある判例は、損害額の算定のためにそのような仮定をすることに消極的であった。 議論は分かれる。 一つの判例は、手数料を返還することが正確に顧客が失ったものに対する損害の賠償であると判示し、他の判例はチャーニングと相当因果関係にある損害を確実に推定することができないことを強調する。 この立場は取引損を通常の市場の下落によるものとチャーニングによるものとに配分することは憶測的過ぎるという。 そのような憶測的な性格を根拠として、取引損の賠償を認めない立場はチャーニングが一つの統合的な不法行為又は継続的な不法行為というよりも、連続した個々の取引に焦点を当てている。 誰も特定の取引を指して、それが違法であるとか賠償されるべき損害であるということができない。 それは過大に取引し、それが複雑に拡大し、その結果、因果関係の立証を欠くに至るというチャーニングの性格による。 最良の救済は、ブローカーの取引パターンの全過程を投資家・顧客に望ましい又は合意された取引パターンと比較することで、侵害行為を分析することであろう。 加えて、取引損を賠償することに反対する議論は、顧客が被った全損害に焦点を当てていない。 もし、判例が損害を準契約的損害に限定した場合、市場の下落の結果でなくチャーニングの結果口座の価値が減少した場合、顧客は完全な賠償を受けることができない。 ある判例は、この問題は棚ぼた利益を競い合うようなものだと考えた。 一方で、顧客は当初から有していたものよりも多くのものを得、従ってチャーニングがなかった場合よりも有利な立場に立つ。 他方、顧客に取引損の賠償を認めなければ不法行為を行ったブローカーに棚ぼた利益が与えられる。 もし、裁判所がどちらの当事者が棚ぼた利益を受け取るべきかを決めなければならないとすれば、不法行為を行ったブローカーを助けるよりも善意の顧客に完全賠償をするのが公平であろう。 最後に、取引損の賠償を認めない説は顧客の損失を救済し、ブローカーの将来における詐欺的取引を抑止するという立法目的を軽視している。 この後者の目的、すなわち抑止的目的を説明するため、ニューヨーク州の裁判所は顧客への賠償を準契約の損害に限ることはブローカーが効果的に「低リスクの窃盗罪」を犯すことを促進すると鋭く指摘している。 従って、今後裁判所は顧客を完全に救済するため、憶測とされるものの意味をより自由に解釈し、ブローカーの継続的詐欺行為を抑止すべきである。 C.適合性  裁判所と学者は一般的に、もし買われた証券が顧客の投資目的に適合しているならば手数料以上の賠償は認められるべきでないことで一致している。 適合性はブローカーが顧客に買いを奨めた証券を問題とする。 他方、チャーニングはブローカーの過当な取引を問題とする。 二つの訴訟の基礎にあるものは「看板理論」すなわち、基本的にブローカーは顧客の最大の利益のため行動するという理論である。 証券取引委員会の規則は不適切な証券の買い又は売りについて、チャーニングを問題とせずブローカーをけん責しうることを定める。 ブローカーが顧客の経済的目的や利益に適していないことを知りながら、その証券を買ったことを顧客は立証しなければならない。 裁判所は又もし証券が投資家の目的に適合しなければ、投資家はブローカーが顧客の口座で過当取引を行ったという事実にもかかわらず、手数料のみの賠償を得ることができると判示している。 実際上、裁判所はブローカー側の不法行為が取引の過当性のみにあり、不適合証券の取引にはないと判示している。 従って、顧客は過当取引と相当因果関係がある損害額、すなわち過当取引期間中の手数料のみの賠償を受けることができよう。これら二つの概念が別個のものであるにもかかわらず、裁判所はチャーニング事件において準契約的損害を超える損害を認容する目的で、これらを統合している。 例えば、Hecht v. Harris Uphamにおいて裁判所は 確かに過当取引は顧客に対し手数料と利息を超えた損害を惹起し、そして疑いなく本件がそうである。・・・・・ 我々は原告が証券と商品取引における積極的な取引の通常のリスク(単なる投資口座として維持するものと区別される)を引き受けたと認定した。・・・・・  Hecht判決における原告は口座が積極的な取引口座として扱われることを望んだ。 彼女は行われた取引を明らかにした確認書を受け取った。 そして、取引された株式の適合性に関しては不服を述べなかった。それ故、裁判所は彼女の持ち株は過当に取引されたが、彼女はブローカーに支払った手数料を超える損害の賠償を得ることはできないとした。 他の判例もHecht判決の理由づけに従い、買われた証券が顧客の投資目的や利益に適している場合や、顧客の行為によって不適合性の主張が禁反言と見られる場合には準契約的損害に限定した。 この分析には二つの問題がある。 第一に、もしブローカーが顧客が買付に同意を与えたであろう株式で過当な取引を行った場合、不正直なブローカーが抑止されず逆に救われる。 第二に、この分析ではチャーニングと相当因果関係で生じる損害は何かという論点を困乱させる。 この分析ではチャーニングによっては各取引に支払った手数料以上の損害が発生しないことになる。 むしろ、そのような推定をするよりも裁判所は顧客にチャーニングと相当因果関係のある取引損の証拠の提出を許すべきである。 裁判所がチャーニングを「それ自体」で不適合取引と考えることでこのアプローチが可能となろう。 ブローカーが顧客に適合した証券に投資したかどうかはブローカーが顧客の口座を支配していたかまたは顧客を騙す意図を有していたかの認定と関連するであろう。 しかし、それは顧客がチャーニングの結果、取引損を被り得るという事実を変えることはない。 過当取引それ自体が取引損の原因たりうるというのがその理由である。 要するに、チャーニング事件の顧客はチャーニングと相当因果関係にある全ての損害を補填されるべきである。 チャーニングは明らかにブローカーに違法な意図を必要とする詐欺的な行為である。 ブローカーが口座で過当な取引をしたことを顧客が立証した場合、(1)顧客が市場の知識を有していたこと(2)手数料を超える賠償を与えることが憶測的であること(3)ブローカーによって行われた取引の適合性等を理由として準契約的な賠償に制限することはブローカーの不法行為から生じる損害の救済を怠ることになる。 ブローカーはもし、チャーニングの企みを行ったため訴えられた場合、ただ手数料だけ返せばよいことを知っておれば、喜んでチャーニングのリスクを取るであろう。 加えて、それは詐欺的なブローカーを抑止することに役に立たない。 しかし、チャーニング事件における取引損の賠償のために、裁判所をより積極的ならしめる他の計算方法が存在する。 差額損害方式と契約上の損害方式がそれである。 U.取引損の算定方法  チャーニング事件における取引損の算定方法には主として二つある。 差額損害方式と契約上の損害方式である。 A.差額損害  差額損害方式によれば、チャーニングの前と後の口座の価値の差額が損害である。 例えば、顧客は1月1日に1,000ドルの評価の持株について、ブローカーに取引を委せたところ、1月30日にその評価が100ドルになった。 もし、事実審の裁判官が差額損害方式を適用すると損害は1,000ドルマイナス100ドルで900ドルである。 従って、損害は準契約方法におけるブローカーの利得から顧客の損害へと焦点が移動する。 この方法は、ブローカーにチャーニングを抑止させる可能性があることで効果的な救済方法である。 すなわち、もしブローカーが取引損の責任を負わされることを知っておれば顧客の口座でチャーニングを行うことは経済的リスクを増加させ、詐欺的に手数料を稼ごうとする欲求をそこなうであろう。 しかし、それはチャーニングを行ったブローカーに制裁を課す限度において、顧客の損害を償うものであるため効果的な救済方法ではない。 差額賠償方式は過大な賠償を与える可能性があるが、顧客が有する市場知識または憶測や適合性という概念により、賠償が制約され、過少な賠償しか与えない可能性がある。 再び、問題の中心は因果関係である。 差額損害方式は市場の通常の変動による損害を考慮に入れていない。 通常の市場の変動で、もし顧客の持株がその価値を減じたならば、差額方式は顧客をチャーニングがなかったよりも有利な立場に置くであろう。 かくて、差額方式は(準契約の方法)より正確に損害の問題に対処するが、最良の解決ではない。 更に、差額方式は顧客の実際の損害を償うというよりもブローカーに制裁を課すに役立つという事実は、この方法が証券取引所法によって許されないことを示唆している。 B.契約上の損害  より良い方法は契約上の損害の基づくもので、それはブローカーが顧客の口座で過当な取引をしなければ顧客が得ていたであろう全てのものを賠償するものである。 第2高等裁判所は最近契約上の損害に基づく方法をRolf v. Blyth, Eastman Dillon事件という証券詐欺事件で適用した。 その方法は長大な意見の所産であり、また他の裁判所や学説によって積極的かつ批判的に補強された。 例えば、Miley判決は次のように述べる。 ブローカーの不法行為に帰因する取引損を概算するため、そのような不法行為がなければ投資家のポートフォリオ(持株)がどうなっていたであろうかということを推測する必要がある。 事実審の判事は主として構成する証券のタイプに基づいて推測がなされる指標を選択するにつき広い裁量を与えられねばならない。 しかし、具体的な証券の構成が存在しない場合、またはより正確な方法が当事者により立証されない場合には、Rolf v. Blyth, Eastman Dillon判決においてオークス判事が用い、そして本件でモーハン判事が用いた方法が望ましい。・・・ この推定方法は関連期間におけるダウ・ジョーンズ工業株指数または スタンダード・プア指数の変動率を問題のポートフォリオがブローカーの不法行為が存在しなかった場合にどうなっていたかの指標に用いる。  Rolfの方式は次の五つのステップからなり、それはどのようなチャーニング訴訟においても最も適切な損害算定方法となろう。 ステップ 1  チャーニング訴訟における損害の算定を行う最初のステップは、不法行為の始まった日における顧客のポートフォリオ(持株)の市場価値を決める。 不法行為が始まった日を決めるために裁判所は当該事件の事実に基づいて何時ブローカーが最初に顧客の口座を支配し、過大な取引を行い、そして顧客を騙すことを意図したかを認定しなければならない。 ブローカーが最初に口座を支配し、過大な取引を始めたのは何時であるかを認定するため裁判所は通常顧客に送られた月次報告書を吟味することが出来る。 ブローカーの顧客を騙す意図を認定するため、裁判所は顧客の口座における過当な取引の程度を検討し、ブローカーの騙す意図の認定を行わなければならない。 最後に、裁判所は不法行為が始まった日における顧客のポートフォリオの市場価値を計算するためにポートフォリオにおける各証券の価格に株数を乗じるべきである。次いで、裁判所はその結果を合計すべきである。 その数字が、詐欺が始まった日における顧客の持株の市場価値である。 ステップ 2  損害を算定する第二のステップは、顧客のポートフォリオの評価を調整するために使う適切な指標を選ぶことである。 このステップでは、もしブローカーがチャーニングを行わなかったとすれば顧客が有していたであろうものを決めるための適切な指標によって、彼のポートフォリオを調整することを顧客に認め、顧客はそれ以上のもの回復できない。 裁判所はチャーニングがなかった場合の顧客の持株の動きと密接に関連した市場の動きを示す指標を選ばなければならない。 適切な指標を選ぶことが、この方式における最も重要な過程である。 もし、選ばれた指標が顧客のポートフォリオと密接に関連した株式の動きを反映すれば、憶測的損害を賠償する危険性は少なくなる。 買われていた株式が顧客の投資目的と利益に適していたか否かを問う必要はない。 もし、その買付が適合性を有しておれば持株の動きは市場の動きとパラレルであろうから、通常の市場の動きの下においては顧客の持株の評価を減じる結果となろう。 従って、顧客はチャーニングが原因ではない持株の評価の減少を回復できない。 一つの指標を選ぶために、裁判所が考えなければならない重要な問題が二つある。 第一に、裁判所は適切な指標を選ばなければならない。 第二に、チャーニングの期間におけるその指標の変化率で顧客のポートフォリオを調整しなければならない。 第一の問題に関し、適切な指標を選ぶために事実審はその裁量で適切と認められるどのような指標でも用いることが出来る。 何が適切であるかを決めるため、裁判所は詐欺的行為が始まった時における証券の属性を検討すべきである。 例えば、顧客が20銘柄の証券を持っており、その多くは工業会社によって発行されたものであれば、裁判所はスタンダード・プア工業株指数のような指数を工業株全体の動きを示す指標として用いることができる。 これと対照的に、もし顧客の20の証券が1株10ドル以下の株式であれば、裁判所はスタンダード・プアの低位株指数のような指標を低位株全般の動きを示す指標として用いることができよう。 双方の指標はよく知られた指標である。 しかし、裁判所はよく知られた指標を選ぶことに限定されない。 裁判所はいかなる適切な指標をも選ぶことができる。 適切な指標を探す際、Rolf判決は明示的に実際の株式や合成された指標を顧客の持株の市場評価を調整するものとして使用することを認めなかった。 実際の株式を指標とすることは、顧客の当初の持株の変動によって修正しようとするものである。 この指標はブローカーが不法行為期間中何らの取引をしなかったと仮定している。 チャーニングの被害者はブローカーを信用して取引をしていたのであるから、この指標は顧客の損失を評価するのには不適切であり、用いられるべきでない。 Rolf判決はまたブローカーが提案した合成指標を認めなかった。 合成指標は次のように計算される加重平均の指標である。 まず、ブローカーが顧客の保有株式が属する全ての業種を決める。 次いで、ブローカーは各業種に属する株式の評価を出す。次いで、ブローカーは各業種を構成する株式の評価を出す。 次いで、ブローカーは、概ね顧客の株式と同じに評価されている株式を含む6つの業種別指標を選ぶ。 最後に、ブローカーは顧客のポートフォリオの価値を不法行為期間中の6つの業種別指標の上昇または下落の率によって修正する。 裁判所はこの方法が株式の属性を、同じ業種における同種の株式の評価と同一化していることが不適切であるとして、合成指標の利用を認めなかった。 株式の属性は単なるドル評価以外の要素によって決まるからである。 裁判所は合成指標に批判的であるが、必ずしも常によく知られた指標を用いるべきで、それを利用できないとは判示していない。 当事者が合成指標を構成する株式と顧客の持株が同じ業種にあること、同じ価格、同じ属性であることを立証した場合には、合成指標は裁判所によって採用され得るであろう。 合成指標は一般に知られた指標より信頼性と正確性がある。何故なら、それは顧客の持株とよく関連した多くの指標の動きを基礎としており他方、一般的に知られた指標は広範囲な指標に基づき市場全般の動きを反映しているからである。 一般に知られた指標は合成指標ほどには顧客の持株と密接な関連を持たない。 更に、合成指標はその適用によってより正確に作成されうる。 もし、裁判所がチャーニング期間における数個の指標によって市場の動きを比較し、顧客のポートフォリオの市場評価を調整したいのであれば同一業種における同様の価格と属性の株式を比較してみるべきであろう。 この合成指標を適用することで裁判所はチャーニング期間における実際の顧客の持株とほとんど等しい株式の市場変動を考慮できるであろう。 裁判所は良く知られた指標を使うか、合成指標を使うかを決定するにつき広い裁量権を持つ。 しかし、この裁量を行使するに当たり裁判所は憶測による損害を与えないという政策に従うべきである。 当事者は常に自己に最も有利な指標を提出する。最も妥当な指標を選択するため裁判所は顧客の持株と提出された指標における証券の価格、属性、種類の間で密接な関係があるかどうかを検討すべきである。 裁判所は、どの種類の指標を選ぶかについて自由であるとはいえ、常に顧客の実際の損害を決定するうえで最も正確な指標を選び、憶測を排除すべきである。 第二の問題に関し、顧客のポートフォリオの価値を調整するに当たりRolf判決は、適切な指標における減少率を乗じるべきであったと判示した。その指標はチャーニング期間において上昇したが、ポートフォリオの評価はそれによって変えられなかった。 実際、その判例は詐欺的な行為の期間中、損失が発生しない限り顧客のポートフォリオの価値を調整することをしなかった。 その判例は多分、裁判所は、もし詐欺がなかったら彼が有していた立場より有利な立場を与えることができないことを理由としたのである。 この理論は、明らかに証券取引所法が原告は「実際の損害」を超えるものを回復できないと規定していることに導かれたものである。 しかし、裁判所は原告の Rolfに彼のポートフォリオの価値を調整するため適切な指標による増加率を乗じることを許すこともできたであろう。 裁判所がそうしたとしても、それは原告を詐欺がなかったとした場合以上に有利な立場を回復したことにはならない。 むしろ、それはもし詐欺がなかったら彼が有していたであろう価値と同様のものに回復するであろう。 もし、市場指標が詐欺の期間、全般的な上昇を示しておれば顧客のポートフォリオの評価はその間増加していたであろうと公正に言い得るからである。 従って、市場の上昇率により調整することは正当化される。 適切な指標が選ばれたら裁判所は次のステップへと進むことができる。 ステップ3  Rolf判決で用いられた第3のステップは詐欺的行為が終了した日における顧客のポートフォリオの評価額である。 この評価額がステップ1から22までの合計から差し引かれる。 裁判所は事件の事実に基づき何時ブローカーが口座支配を失い、過当な取引を中止し、または騙す意図を放棄したのかを認定しなければならない。 ブローカーがチャーニングを終了した時点における顧客の全ての持株のドル評価が市場価値である。 裁判所はブローカーがチャーニングを止めた日における顧客のポートフォリオの市場価値をチャーニングが始まった日における顧客の調整された市場価値から差し引くべきである。 ステップ 4  顧客への賠償額を算定する第4のステップは詐欺的行為の期間中にブローカーに支払われた全ての手数料を顧客に返すこと、すなわち準契約的回復である。 かくて、この方法においては準契約的回復は完全賠償の一つの要素になる。 ステップ 5  第5はステップ1から4までを通じて顧客が得る全賠償額について、判決前の利息を計算することである。 以下のチャートは上記の公式が典型的なチャーニング事件において、いかに適用されるかを示す。次の事実を前提とする。 1983年7月1日、顧客Xは株ブローカーYにA、B、C、D の株式をもって行った。 Xは各株式の100株を有し、それぞれの株式は1株9.00ドルであった。 Yは1984年1月1日までXの口座で過当取引を行った。 XがYの詐欺的行為の中止を求めた時、XはE、F、G、Hの株式を有していた。 Xはこれらの株を各75株有しており、また株価はいずれも1株7.00ドルであった。 チャーニング期間中Xは1,000ドルの手数料を支払った。 1985年1月1日の審理で、裁判官はXの持株の評価を調整するため、スタンダード・プア低位株指数が適切であると認めた。 その指数はチャーニング期間中4パーセント上昇していた。 また、裁判官は判決前利息は年10パーセントであると決定した。 損害額の算定は次のようになる。 ステップ 1  チャーニングが始まった日における持株の評価 〔銘柄数(4)×株数(100)×一株あたりの価格(9)〕 3,600ドル ステップ 2  チャーニングが始まった日における持株の評価を適切な指標の変動 率によって調整する。 〔3,600×4%+3,600〕   3,744ドル ステップ 3  チャーニングが終わった日における持株の評価を差し引く 〔3,744−持株数(4)×株数(75)×1株当り評価(7)〕 1,644ドル ステップ 4  ステップ1から3のトータルに顧客が支払った全手数料を加える 〔1,644+1,000〕 2,644ドル ステップ 5  チャーニングが始まった時から現在までの年10パーセントで計算した判決前利息を加える 〔(2,644 ×10%×0.5 )=132.20+2,644〕 2,776.20ドル 全損害  2,776.20ドル  要するに、裁判所はRolf判決によってチャーニングの結果生じた実際の損害に近いものを賠償することができる。 上記方式は、顧客に賠償するに当たり、市場の通常の変動を考慮することでチャーニングがなければ顧客が得られたであろう額を正確に計算している。 加えて、より大きな損害額となりうることでこの方式は抑止的効果を確かなものとする。 結論  裁判所は低リスクの窃盗罪を終わらせるために、チャーニング事件で準契約的損害、すなわちブローカーに支払われた手数料だけの損害に限定すべきではない。 裁判所は証券取引所法の下に存する救済的、抑止的目的を認識しなければならない。 裁判所は損害を評価する際、チャーニングが顧客に対し手数料の損害以上の損害をもたらすことに留意しなければならない。 チャーニングは顧客の持ち株の価値の減少をもたらすであろう。顧客の損失を償うため、裁判所は顧客の行為を過当取引の要件として重視しないという寛容な態度でなければならない。 詐欺的に行動するブローカーが証券の知識をもっている顧客との取引で[責任]を軽減(receive a reprieve)されてはならない。 また、裁判所は憶測や適合性原則の概念に基づいて賠償を制限すべきではない。裁判所は罪を犯していない顧客のために、憶測の要件を緩和すべきである。チャーニングはそれ自体不適合な取引であるから裁判所は適合性原則を考慮すべきでない。 裁判所は全てのチャーニング事件における損害算定のため一つの算定方法を用意すべきである。 最良の方法は第2高等裁判所によって提示されたものに近いものである。 この方法は、顧客の当初の持株の評価に適切な指標による市場の変動率を乗じ、それから顧客の最後の評価を差し引く。 この方法は理論的であり、また適用が容易である。 加えて、この方法の利用で裁判所はブローカーのチャーニングから生じた実際の損害に近い賠償を与えることができる。 最後に、それによりブローカーはチャーニングの高いリスクを考慮せざるを得ない。 この方法において、裁判所は証券取引所法の下にある目的を実施することができ、低リスクの窃盗罪を終わらせることができる。                  (訳 弁護士 渡辺征二郎)